観光地と外国人観光客の分散化という二つの課題に適った取り組みが、根室市を中心とした道東でのエコツーリズム振興だ。ロシアの漁業規制強化により、サケ・マスの漁獲量が制限され、道東は多大な影響を受け、水産加工などの関連産業を含めた経済的損失は250億円に上るとの試算もある。漁業中心の産業構造からの転換が求められる状況にあって、JTB北海道は昨年8月に「道東エコツーリズムアイランド構想」を新事業として立ち上げた。

「根室市など道東の皆さんへ、われわれが積極的に戦略提言しているプロジェクトです。道東エリアは世界に類を見ない野生動物や自然の宝庫で、それを観察するために欧米のお客様がいらしている。エコツーリズムの関心が高い欧米に向けて観光プロモーションを展開すれば、もっとお客様を呼べるのではないかと、地元の皆さんと協力しながら仕掛けを考えて、大いに盛り上がっているところです」

昨年12月には「道東エコツーリズムアイランド構想」のキックオフフォーラムが根室で開催された。

「世界自然遺産のまち・羅臼から標津、中標津、別海、根室、そして釧路湿原へと続くルートは、世界レベルで見てもエコツーリズムのゴールデンルートになりうる素材の宝庫です。JTB北海道さんにひと肌も、ふた肌も脱いでいただき、認知度をさらに高め、訪日インバウンドを道東に呼び込みたい」(長谷川俊輔・根室市長)

自治体と連携した新事業、アウトバウンドにも注力

ほかにも地元自治体と連携した観光振興の取り組みは道内各所で行われている。例えば岩見沢市。道内最大のバラ園を有する公園や若手経営者が立ち上げたワイナリー、瀟洒(しょうしゃ)なホテルなどがあって欧風の田園風景が味わえるが、観光地として注目されることは少なかった。JTB北海道が人材育成やマーケティング戦略の立案などを主導、国内外から観光客を呼び込む仕掛け作りを進めている。

観光の中核地である札幌ではインバウンド向けに夜間のエンターテインメント空間を企画、昨年11月にアイヌの舞踊やよさこい祭りなど北海道の伝統的なコンテンツを取り揃えたテスト公演を実施した。今後は常設化を目指していくという。

訪日インバウンドをいかに取り込むか、今や日本中で競っている観がある。しかし観光の持続的成長には“発(アウトバウンド)”も重要だと笹本社長は指摘する。

「JTBグループの交流文化事業は、行き来を活発化させて全体の経済効果を出すことが最終目的だと理解しています。北海道の場合、パスポート取得率が全国で非常に低い。どんどん外国の方がいらっしゃるようになっても、こちらがアジアの国にも行ったことがないのでは、お客様が自国でどういう生活をされているのかわからない。それでは受け入れのホスピタリティーは高まらず、親切にするどころか、逆に避けてしまいがち。北海道の人々が海外に出て現地の人たちと触れ合うことで、こちらにやってくる外国人のお客様に対する見方も変わってくる。そういうお手伝いをするのもわれわれの大事な使命だと思っています」

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