ビリオネア名言録【4】
いったいレンタカーを洗車する人なんているでしょうか?

バフェット氏は6兆円を超える自己資産の99%をバークシャー株で保有している。一般には分散投資が投資の王道と言われているが、それと正反対のスタイルで投資しているわけだ。なぜかというと、「私がバカなことをしたときに、あなた(株主)たちと同様に私も苦しむので、それを慰めにしてほしい」と思っているからだ。

96年にバークシャーの株主向けに書いた「オーナーズ・マニュアル(株主のためのマニュアル)」の中では、次のように記している。

「バークシャーの株主はすぐに消えていなくなるような投資家ではなく、私たち(バフェット氏と副会長のチャーリー・マンガー氏のこと)と一緒に事業を保有するオーナーであり、パートナーであると考えています。ですから、あなた(株主)がパートナーである期間、私たちの財産はあなたの財産と同じように変動するようにしています。高額報酬やストックオプションであなたよりも有利に立とうなどとは思っていません。パートナーであるあなたが富を増やしたときに限って私たちも富を増やすのです。増加率がまったく同じになるように、です」

要するに、一般株主と同じ視点で経営する「オーナー経営」を徹底しているわけだ。バフェット氏は投資先企業の経営者にも自社株の大量保有を促している。言葉は同じでも、創業者であるオーナー経営者が好き勝手に行動する日本的「オーナー経営」とは似て非なるものだ。

バフェット流のオーナー経営とはどんな経営か。バフェット氏は得意の比喩で、「いったいレンタカーを洗車する人なんているでしょうか?」と疑問を投げかけたことがある。意味するところは、「オーナーならば喜んで洗車するだろうけれども、誰もレンタカーを洗車しようとは思わない」である。オーナー意識があれば、経営者は株主から預かった資産(つまり会社の財産)を大切に使おうとするから、採算割れの事業を続けたり、割高な企業買収に走ったりすることもない、というわけだ。

バフェット氏が名経営者として仰いだトム・マーフィー氏はまさに「オーナー経営」の見本だった。数十年も昔の話だが、マーフィー氏は急成長するメディア企業を率いていた。経費削減の手腕は伝説的で、本社には法務部門も広報部門もなく、目抜き通りに面した本社ビルの壁面にはペンキさえ塗られていなかった。ここにバフェット氏は惚れ込んだ。本社ビルの壁面にペンキを塗ることで生産性が向上し、企業価値が高まるだろうか? ペンキはいいにしても、多額の資金を投じて豪華本社ビルを建てるのはどうだろうか? 経営者はうれしいかもしれないが、株主には何の利益ももたらさない。オーナー意識があれば、豪華本社ビルへ投資しようなどとは思わないものだ。

エンジェルがベンチャー起業家に出資するケースがわかりやすいかもしれない。出資して間もなく、ベンチャー起業家を再訪したら、高級マンションに住み、高級スポーツカーを乗り回していた……。そしたら、エンジェルは「他人のカネを自分のカネだと勘違いして使っている」と思い、出資を引き揚げるだろう。上場企業でも同じことだ。オーナー意識が欠けていれば、株主から預かった資金を経営者が自分のために無駄に使いかねない。

余談になるが、バフェット氏は中国やイスラエルなど外国企業への投資を増やしているなかで、日本企業への投資を見送っている。その一因も、日本企業がバフェット流の「オーナー経営」、言い換えると「株主を向いた経営」を徹底できないことにあるのかもしれない。日本では経営者が株式を大量保有するという習慣も根づいていない。