大震災も原発事故も物語に残さないといけない

【三宅】海外からの寄付とは、ありがたいことですね。

【吉田】その後も追加の寄付をいただきました。お礼と報告については、子どもたちが行くっていうアイデアが出てきたわけです。私は国連の本会議場で、世界の大使を前にやらせたいと思い、文科省に働きかけたら、「いや、これは政府関係じゃないから無理だ」と言われて、それで10月16日にジャパン・ソサエティーの本部でということになりました。英語スピーチの指導はイーオンさんに本当にお世話になりました。最初は、代表の2、3人を連れて行ってと思っていたのですが、みんな一生懸命になって、イーオンで勉強しているわけですから、「それだったら、成果を見せてやろうよ」と8人全員参加となった。

【三宅】よかったです。

【吉田】8人を選んだ基準は、英語が得意というより、その子が感謝の気持ちを伝えたいと思っていること。この内容だったら海外の人が「寄付金を出して良かったな」と思ってくれる文章で選びました。それを英語に訳して、自分のスピーチにしたんですが、その過程で全員が力をつけた。最後の段階では、しっかりと気持ちが伝わってきましたよね。

【三宅】私どもにとっても非常にありがたいことでした。やっぱりニューヨークの方も、きちんとお礼に子どもたちが8人も来て、きちんとスピーチをしたというのが大きいですよね。いろんなところに寄付をされても、そのような反応があるとは限らないのに、きちんと形で感謝の気持ちを表す手助けができたのですから。

【吉田】ジャパン・ソサエティーの理事長も喜んでくれまして、「吉田さん、『ふくしまキッズ』は当たりだったよ」と言ってくれた。つまり、寄付でも当たりハズレがあるらしい。正直、それを聞いて、なんかもう責任を果たしたなと肩の荷が下りた気分になりました。

そして最後に、フェアウェルパーティーという形で全国の「ふくしまキッズ」関係者のみんなに福島に集まってもらって、800もの子どもたちや保護者の皆さんに会ってもらいました。もちろん、北海道だけじゃなくて、全国から来てもらいました。ボランティアの人が多く、交通費を払って集合してもらいました。

【三宅】吉田先生らしいと思ったのは、今回の活動記録を物語として残されるという発想です。当初から活動支援をしていた作家の田口ランディさんに執筆を依頼して『リクと白の王国』(キノブックス)という小説にしましたね。この物語で後生に託す思いっていうのはどのようなものでしたか。

【吉田】例えば、私が広島の原爆で頭に浮かぶのは、マンガの『はだしのゲン』だとか、井伏鱒二の小説『黒い雨』です。だから、今度の東日本大震災と福島第一原発事故も物語に残さないといけないということで、田口さんにお願いしました。とてもすばらしい出来栄えなので、多くの日本の子どもたちが読むだろうし、海外の寄付者の方々のために英語版の出版もしようと思っているんですね。

【三宅】確かにストーリー性があれば、印象がずっと残りますよね。報告書でいくら数字が並んでいても、頭を素通りして残らないですよね。

【吉田】私は今、若い人たちとできるだけ接しようと思っているのは、その若い人たちがこうした思いをつないで行ってくれる主体だからです。おそらく、これから先、私たちの社会は、ゆっくりと衰退期に入ると思いますが、それでも幸せに過ごす方法を次の世代に託さなくてはいけないと考えるからにほかなりません。

【三宅】本日はありがとうございました。

(岡村繁雄=構成 澁谷高晴=撮影)
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