知る人ぞ知る税制面の多大なメリット

ただ、それだけの技量を誇る技術者の人件費はどうなのか。現地で幾つかの案件を手掛ける経営コンサルタントの平塚俊樹氏は、「国土が東京23区並みと狭く、人件費と地代は正直、日本より高いですね」という。リム氏もそこは認めたうえで、安価なBtoC製品を大量生産する方式が最早立ち行かないことを強調する。

「給与は決して安くはありませんが、それに見合った生産性と付加価値がつけられます。単なるコストダウン目当てではなく、新たなアイデアやビジネスモデルの構築といった価値を生むための環境を、我々は提供できると考えています」

シンガポールでビジネス展開するうえで知る人ぞ知るメリットは、ズバリ税制面である。16年度に法人税の実効税率を29.97%に下げる日本と単純比較するとシンガポールのそれは低率だ。

「法人実効税率は17%。国内にどんな機能を持ち込むかにもよりますが、個別対応で15%、10%、5%に下げることが可能です」

シンガポール在住の弁護士によれば、原則としてキャピタルゲイン課税がないシンガポールに地域統括会社を設けることで、税制上の恩恵が受けられる可能性がある。たとえば、シンガポールと租税条約を結んでいるベトナムにシンガポールの統括会社を通して孫会社の法人を持つ場合、同法人からの配当には、シンガポールにおいては課税はなされない。

無論、資金面に関しては、シンガポールは外国為替取扱高で日本・香港を抑えてアジア首位、世界3位を誇る金融センターである。

「USドルやユーロ・円はもちろん、東南アジアの通貨をことごとく扱っており、14年以降は人民元の決済規模が香港に次ぐ世界2位。100以上の外資系金融機関が東南アジア本部をシンガポールに設けているので、個々のお客様に適した金融商品が提供できるし、資金運用も選択肢が広い」(リム氏)

英国の植民地時代以来の、アジア貿易の拠点という地の利は揺るがない。経済成長率5~6%を維持する東南アジア市場に位置し、北に中国、西にインド、南に豪州、ニュージーランドが控える。

「東から西、西から東へ向かう航路のちょうど中間地点で、オイルタンカーの航路であるマラッカ海峡も間近。現在、コンテナの取扱高は香港に次ぐ世界2位です。日本郵船、佐川急便、ヤマト運輸も拠点を置いています」(同)

経済成長がひと段落し、岐路に立つシンガポールだが、事業環境はかくの如し。平塚氏は「『コストが高くてもしっかりやりたい』という前向きな気持ちがあるメーカーならOK」とキッパリ。「我々をうまく使って、新しいビジネス展開を」(リム氏)という熱いラブコールに応えれば、新たな成長の道をともに歩めそうだ。

(シンガポール経済開発庁=写真提供、時事通信フォト=写真)
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