技術者の多くは30代後半から40代。中国・インド・マレーシアなどの母国語プラス英語が堪能で、工場の指導者になれるだけの経験と技術を積んでいるという。

「彼らは20代の頃に日本をはじめ海外企業の本国で研修を受講。その後も本国で学んでおり、シンガポール以外の国や地域に工場を設ける際、現地で指導者を務められるだけの経験を積んでいます」(リム氏)

たとえば、自転車部品で世界的なシェアを誇るシマノは、73年からシンガポールに拠点を置く。2001年のチェコ新工場の設立はシマノシンガポールが主導、初代工場長にシンガポール人を選んでいる。米フィリップスが北京で設立したカラーテレビの工場は、華僑を中心としたシンガポールのエンジニアが立ち上げたという。

シンガポールの技術者の強みは、ものづくりにおける日本人独特のやり方を知っている、理解できることだとリム氏は言う。

「欧米人は、勤務時間内は一生懸命仕事をするが、時間外は絶対に仕事をしない。日本人は勤務時間中も時間外も仕事をする。シンガポール人はその中間で、両方の考え方を理解し、適応できるのです」

現地の技術者が日本人とより近い意識を持つことは、スムーズにコミュニケーションを取れるという安心感に繋がりそうだ。

同様に、今や企業の死活を握る知的財産の保護については、法整備に加え、実際に製品を手掛ける従業員の意識が極めて重要である。

「最先端の技術を使った製品を安心してつくれるよう、法整備をはじめ欧米式のやり方でノウハウが外に漏れないよう工夫しています。我々シンガポール人の国民性は、起業家よりもどちらかといえばサラリーマン。常にルールに従う、守るという意識が強い」(リム氏)

図面を勝手にコピーしたり、それを基に親族で同じものをつくったりするメンタリティとは縁遠いようだ。実際、米ファイザー、英GSKといった製薬大手が、“知財の塊”のような医薬品の工場をシンガポールに設けているという。