2016年2月26日(金)

ねぎを丸ごと一本! 大内宿の名物蕎麦

dancyu 2014年4月号

文・柴田幸雄 撮影・小原孝博

ねぎは薬味であり、箸でもある?

大ぶりの椀に蕎麦がたっぷり盛られ、つゆが張られている。うずたかく盛られているせいもあるが、相当な量だ。つゆは冷たい。いわゆる「ぶっかけ」だ。蕎麦の上には削りたての鰹節。これだけでもかなりの迫力である。そこに中太のねぎが一本添えられている。箸はない。

水そば●つゆではなく水で食べる蕎麦。それだけでも驚きだが、どうしてもシュノーケルのような形をしたねぎに目がいく。箸ではなく、このねぎを使って食べる。

「このねぎを箸代わりに、蕎麦をからめて召し上がってください」

配膳の女性に会津訛りで優しく語りかけられたが、勝手がわからずしばしながめていた。しかし、相手は蕎麦である。のびる前に片づけなければいけないと、意を決してねぎを蕎麦の山に突き刺した。

福島県南会津郡下本郷町にある大内宿は、古い町並みが残る宿場町として、近年多くの観光客を集めるようになった。江戸時代には会津と日光を結ぶ会津西街道の宿場として栄えた大内宿だが、明治以降は山間のひなびた集落でしかなかった。

それが1981年に国から伝統的建造物群の指定を受けると、徐々に観光で訪れる人が増え、今では年間120万人もの訪問客を数える。集落の入り口には観光バスが止まる大きな駐車場が整備され、土産店などもできた。

宿場といっても明治以降は普通の農村だったわけで、これといった名物もない。会津は米や日本酒が有名だが、大内の辺りは米もあまりとれず、代わりに蕎麦を食べることも多かったという。そうした理由もあり、観光客が増えてからは蕎麦を出す店が増えた。とりたてて、蕎麦に個性があるわけではなかった。ただ、水がきれいなこともあり、蕎麦が旨い、そんなふうに言われて、評判は上々だった。

変化が訪れたのは15年ほど前のこと。ねぎを一本丸ごと添えて、それを箸代わりにして食べる蕎麦を出す店が現れたのだ。その店は、たちまち人気を集めることとなる。今では大内宿に立ち並ぶ蕎麦屋で、さまざまなバリエーションの“ねぎそば”が供され、名物になっているほどだ。

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柴田 幸雄