2016年1月31日(日)

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敵を互いに噛み合わせて漁夫の利を得る

この本は、中国共産党および中華人民共和国成立の裏面史である。著者で、中国問題にくわしい遠藤誉さんが描写したのは、日中戦争期(1937~41年)における毛沢東のしたたかな戦略だ。当時、中国には孫文の三民主義(民族、民権、民主)を受け継ぐ蒋介石の国民党と、ソ連の後押しを受け共産主義で国家を作ろうとする毛沢東の共産党が存在していた。一般的には、国民党軍が日本と本格戦闘し、共産党軍がゲリラ的に後方を撹乱したとされる。

『毛沢東』遠藤誉著 新潮新書

ところが遠藤さんによれば、毛沢東は「国民党政府を日本と戦わせ、戦力を消耗させてから国民党を打倒し、共産党の国家を創ることを目指した」という。国民党軍の情報を日本に売り、巨額の情報提供料をせしめるだけでなく、日本軍に停戦を申し入れることすら厭わなかった。本のサブタイトルが「日本軍と共謀した男」というのは、このやり方に由来する。

まさに、三国志の「赤壁の戦い」を彷彿とさせる。諸葛孔明が、その神算鬼謀によって呉と同盟し、大国の魏を長江に破った有名な合戦である。それもそのはずで、毛沢東は中国古典を愛読していた。あの長征に携えたのは宋代の歴史書『資治通鑑』だった。もちろん『三国志演義』も読んでいただろう。三つ巴の争いの際、敵を互いに噛み合わせて漁夫の利を得るのは中国古来の戦法だ。

毛沢東は、それを日本と蒋介石を相手に実行した。その意味で、彼にとって日本の進攻は天佑だったといっていい。1956年9月4日、毛沢東が訪中した元日本軍中将に対して「日本軍の進攻に感謝する」と発言したのは偽らざる心境だろう。今日の中国の対日姿勢からは想像しにくいが、この通りであるとすれば、皮肉にも日本が毛沢東という"紅い皇帝"の誕生に手を貸していたことになる。

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