草花のない、土だけのひときわ異彩を放つ作品は、「青山フラワーマーケット」を展開する井上英明・パーク・コーポレーション社長のもの。

「よい花を作る生産者は、土に徹底的にこだわります。同じように、よい経営には、理念や価値観といった、土づくりへの徹底的なこだわりが不可欠という意を込めました。目に見えない土台、水脈を整えることは、やってみると本当に難しい。しかし、その根幹なくしてよい経営はありえないのです」

高濱正伸・花まる学習会代表の作品は、「目の前の1人が幸せであるように」。高濱氏は24歳のとき、高輪で牛乳配達をしながら「哲学の1年」を過ごした。そのときに見上げた冬空を表現したのだという。

「『邪魔だから切ってごらんなさい』『このあたりが立体的になるよう足しなさい』と指導を受けるのは本当に楽しい。先生に教わった俯瞰の視点は、経営にも活用しています」

生け花を授業に取り入れているのは、漆紫穂子・品川女子学院校長だ。

「通学路で草花に興味を持ち、花瓶の水を気にするようになったという生徒がいました。草花とのふれあいは、思いやりの心を深めるのです。生け花を知って子どもたちは変わりました」

そうした生徒の変化が、漆氏自身が生け花をはじめるきっかけとなった。仕事でどんなに疲れていても、花に触れることで気持ちがリセットされ、エネルギーがチャージされると語る。

「私のテーマは『集う』。子どもたちの個性をこちらで無理に曲げたりせず、それぞれの『生きた素材』を大切にしながら、のびのび育てていきたいと思っています」

生け花は決断の繰り返しだ。枝を切る決断をし、1回切ったら、それはもう二度と元には戻らない。今回の出展者の多くは生け花をはじめたばかりだというが、そうは思えないほど素晴らしい仕上がりだ。いずれもみずみずしく斬新で、力強い個性があるのだ。州村氏の指導が入っていることもあるが、日常的に決断を繰り返す経営者だからこそ、作品作りにおいても最良の決断ができたのかもしれない。

(永井 浩=撮影)
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