相手がどうやって情報を取り入れるかを見定める

相手の話を聞きながら、その人がどのような方法で情報を取り入れる人間かを見定めよう。そうすれば、自分の主張を最も効果的な方法で打ち出すことができる。

ニューヨークの広告会社、KCSAのアカウント・ディレクター、ティム・ヘファナンは、大学時代に政策研修生として働いていたとき、相手の言葉の選び方に注目することで自分のメッセージに対する反対を乗り越える方法を学んだ。「人間は3通りの方法で学習する。聴覚、視覚、直感だ」とヘファナンは言う。「その人の主な学習スタイルは、『I hear you(おっしゃりたいことが聞こえます。わかります)』『I see what you're saying(おっしゃっていることがよくわかります)』『I feel……(……のように感じます)』といったフレーズの選び方に表れる。相手が聴覚的な表現を多用する場合には、同種の表現で対応する。『It sounds to me like ……(私には……のように思われます)』という具合に。相手の学習スタイルに合わせることで、情報処理法の違いによる対立を克服できる可能性がぐんと高くなる」

非言語のメッセージに気を配る

説得という難しいゲームでは、非言語コミュニケーションを言語によるメッセージと一致させることが重要だ。言葉で強気なことを言っていても、ボディー・ランゲージでは弱気なことを伝えていたのでは説得力がない。

コルゲート大学の心理学教授、キャロライン・キーティングが行った調査によると、わずか4、5歳の子どもでも大きな説得力を示すことがあるという。彼女の調査では、自分の集団に対して最も大きな影響力を発揮した子どもは、人をだます能力もきわめて高かった。大人についても同じ結果が出た。

「われわれは被験者のウソをつく能力に関心があったわけではなく、演技の技術を見たかっただけだ」とキーティングは言う。

「だが、忘れてはならないのは、われわれはリーダーに常にウソをつくよう求めているということだ。悩んでいるときでも自信満々に振る舞い、疲労困憊しているときでも元気一杯に見せるというふうに。だからこそリーダーなのかもしれない。彼らは非言語の行動によってわれわれをコントロールし、元気づけることができるのだから」

一方、非言語の行動は説得の努力を損なうこともある。それは、反感を呼び起こすきっかけが人間の認知レーダーでは捉えられないほど微妙なもので、人々は自分がなぜその人物を嫌いなのか気づきさえしないためだ、とキーティングは指摘する。

相手の反対を乗り越えるために、自分の非言語の行動をモニターする必要性についてこれまで考えたことのない人は、ぜひ考えてみるべきだと彼女は言う。言葉によるメッセージと同じくらい、非言語の行動もリハーサルする必要があるのだと。

自分の考えを述べる前に相手の考えを並べる

説得の最後の秘訣は、意見が対立する議題だとわかっている場合には、自分の考えを述べる前に相手の考えを並べ出すことだ。

「最初に両方の主張──相手側の主張と自分の主張──を並べる。そうすれば、相手は反論を述べるチャンスを奪われ、解決策を見つける作業に関与せざるをえなくなる。人々をルールづくりに参加させると、彼らがそのルールを守る可能性は高くなるということだ」とキーティングは語る。

相手の視点を考慮に入れるためには、かなりの熟考と練習が必要だ。しかし、その努力は十分に割が合う。長期的な関係を構築し、維持することが短期的な損得より重要とみなされる環境ではとくにそうだ。そして、長期的な関係を重視する傾向は、似通った目標を持ってはいるが、それを達成する方法については意見が異なる他部門や他社との提携を戦略の柱にしている組織において、とみに顕著になってきている。

(翻訳=ディプロマット)