家族で見て記憶に残っているのは、スタンリー・キューブリック監督の『現金(げんなま)に体を張れ』ですね。あれは10歳のお正月だったのかな。刑務所から出てきた主人公が競馬場の売上金を強奪するという話なんですが、すごくテンポがよくておもしろかった。その後、僕にとってスタンリー・キューブリックは最も敬愛する監督になっていきます。

初めて自分の意思で「この映画を見たい」と思って、お小遣いをはたいて行ったのが『戦場にかける橋』。11歳だったでしょうか。ラジオでテーマ曲の「クワイ河マーチ」を聴いたのがきっかけだったと思います。

まだ子供だったから、後半の橋の爆破シーンはおもしろかったけど、前半の橋を造っていく過程はかったるく感じた記憶があります。ただ、年齢を重ねながら何度も見ているうちに、前半部分のおもしろさがわかってきました。

英米の捕虜にとって、日本軍のために橋を造るのは敵を利する行為です。ところが、英国軍将校役のアレック・ギネスは、自分たちの建築技術にプライドがあるから、一生懸命橋を造る。一方、米兵役のウィリアム・ホールデンは、労役をサボりながら脱走を計画します。彼らに対し、早川雪洲演ずる日本軍の大佐は、将校だろうが一兵卒だろうが構わず労役を強いる。

三者三様、それぞれの国民性の違いがよく表れているんです。国益とは何か。誇りとは何か。個人の葛藤と戦場の不条理を考えさせながら、後半のクライマックスに向かっていく――見事な構成です。