私は、決して投資をやめろと言うつもりはないし、現在持っている株を売却してしまえとアドバイスするつもりもない。もう少し損切りを我慢すれば、株価は元に戻るだろう。現在の株価の低迷は、特に日本株の場合、あまりにも実体経済からかけ離れた低水準にある。つまり、本当に損をしたのは、パニック状態に陥って狼狽売りをしてしまった人たちなのだが、いずれにせよ、ロスジェネ世代の親のかなりの数が子供に回す資産を失ってしまったのは事実だろう。

同時に、政策的にも、親世代が持つ資産を消費に回そうという動きが進んでいる。典型は、相続時精算課税制度だ。この税制は、65歳以上の親が20歳以上の子供に2500万円までであれば財産を贈与しても贈与税をかけないというものだ。

この制度を利用しても、最終的に相続があったときには、贈与した財産を相続財産に加算して相続税を課税されるが、本当にお金が必要な時期に贈与を受けることができるのがポイントである。給与も貯蓄も少ないロスジェネ世代に、親の貯金を消費させて、内需の拡大を図ろうというわけだ。

政府の狙いはわかるが、こうした政策は非常に危険なものだと私は考えている。親世代の貯蓄は、本来、消費に回すべきものではない。なぜなら、親世代が築いてきた膨大な個人資産は、日本にとって非常に大きな武器だからだ。この武器を安易に消費に回してしまうのは実に愚かなことだ。もう少し長期的な視点を持って、この国が持続的な発展をするための投資に回す政策を考えるべきではないだろうか。

そして、内需を煽る政策は、当のロスジェネ世代にも不幸をもたらすことになる。すでに身の丈以上に贅沢な生活をしている彼らが、その贅沢な生活を維持するために親世代の金を使ってしまうと、後がないのだ。彼らがこれまでそこそこの生活を送ることができたのは、親という“ダム”が満々と水を湛えていたからである。そのダムの水を、一気に放水してしまったら、一瞬でジュッと蒸発しておしまいである。

給与水準の低い彼らが、親に頭金を出してもらうことで、さらに分不相応な住宅取得という暴挙に出たら、その先、一体どうやって住宅ローンを支払っていくというのだろうか。短期的に内需を煽ったところで、国力が根本的に回復することはない。ダムの水は枯れてしまったらそれでおしまいなのである。

(構成=山田清機)