「使える人材がほしい」と言う企業に提言したいのは「契約社員や派遣社員ではなく、正社員を採用しろ」「業績が苦しくても新入社員を入れ続けろ」「リスクをとれ」ということだ。「せっかく採用しても3年で辞めてしまう」と漏らす人事担当者は少なくない。一方で、積極的に正社員はとりたくないとも言う。

しかし、私に言わせれば、それは矛盾だ。本当に3年で辞めてしまうなら、それこそ正社員として雇うべきだ。どんなに高給取りが多い企業でも、入社3年でそこまで給料は上がらない。モノにならずに辞められたら、それまでだと諦めればいいだけだから、リスクは低い。

新入社員を正社員として雇うことは、「雇われる側」だけでなく、「雇う側」の組織にとっても大きなメリットがある。たとえば新入社員が失敗したら、叱り、教育することになる。そのためには、先輩らしく振る舞えるだけの知識も必要だ。しかし、派遣でやってきた人間が「使えなかった」場合、多くの人は本人を教育するのではなく「もっと使える人に替えてほしい」と派遣会社に電話する道を選ぶ。そうした省エネが、社員が「先輩らしく」成長する機会を損なっている。

また、一部の外資などに見られる極端な成果主義の導入は、短期的には社員のやる気を喚起することができるかもしれないが、長期的な企業の成長を考えれば無用の長物だ。「業績を落としてでも、将来的に役立つ知識を身につけてほしい」と言われたとき、成果主義の企業では、「給料が下がるならやりたくない」と皆が言うだろう。逆に固定給なら「いずれ業績が上がるなら」と真面目に勉強するはずだ。報酬だけで維持できるモチベーションはたかが知れている。本当にイノベーションを起こしたいと思っているなら、成果主義よりも固定給を選択するべきなのだ。

よく「日本の企業ではどんな人でも課長になれる」と言われるが、言い換えればこれは、採用が成功していることの証しだ。17年卒の新卒採用で雇われた新入社員も、同じように課長になれるだろうか。

東京大学大学院経済学研究科教授 高橋伸夫(たかはし・のぶお)
東京大学大学院経済学研究科教授。1957年、北海道生まれ。小樽商科大学卒業。東京大学教養学部助手、東北大学経済学部助教授などを経て現職。研究課題は日本企業の意思決定原理、組織活性化。主な著書に『虚妄の成果主義』『できる社員は「やり過ごす」』など。
(構成=大高志帆 図版作成=大橋昭一)
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