ヤクザよりコワい「日本社会の闇」

その答えは、おそらく映画の中にある。

もしかしたら、大阪の指定暴力団組員の「100%リアル」を知ることで、結果的に、ヤクザよりコワい日本社会の「闇」を感じたのではないか。

密着した土方さんは言う。

「僕たちが所属する一般の企業は、今、コンプライアンス(社内の内規や社則など)を遵守することを社員に強く求めています。(パワー)ハラスメントなどをしない、といったルールを、もし守らなければ、社会的に抹殺されてしまうのではないか、というおそれを多くの人(ビジネスパーソン)は抱いているのではないでしょうか」


『ヤクザと憲法』(C)東海テレビ放送

仕事そのものへの取り組み方やパフォーマンスだけではない。部下・上司に対する接し方にも神経を配らねばならない。それらにしくじれば、肩書きを失い、給料を減らされることも珍しくない。下手すれば、リストラで会社から放り出されてしまう。職を探そうにも、年齢が高ければ、そううまくはいかない。

社員の平均年収が1300万円近いといわれる東海テレビでも、何か不祥事を起こせば、あっという間に転落するリスクはある。

社会的ステータスの高い会社に属する土方さんはこう続ける。

「取材してわかったのですが、彼らの世界には“許す”文化があります。例えば『破門』と聞くと事実上のクビ宣告のように聞こえますが、実際は、一定の時間が経過し、ほとぼりがさめるとまた組への出入りが許されることがあります(『絶縁』は永久追放)。彼らの不文律である厳しい上下関係は、いわばブラック企業的な社風といっていいかもしれません。上の人間に歯向かえば、罰を受けます。指を切り落とすこともあります。でも、(反省の様子が見られるなら)大目に見るという、彼ら流の敗者復活の道が残されているのです」

一般社会で失われつつある、ご近所付き合いや互助の精神。一方、彼らには共に社会の底辺に生きているという“連帯感”があり、そうした文化を残しているから、よほどでなければ社会的に抹殺されることはないのだ。

だから、組員たちはカメラの前で「ここを追い出されたら、行くところがない」と本音を語る。辞める選択肢は、彼らにはないのだ。

「調べてみると、ヤクザを辞めても3~5年は正業に就けないのが実情。更生プログラムが乏しく、一般の社会的弱者と呼ばれる人よりもサポートが手薄いようです」(前出・阿武野さん)

結局のところ、「組」はセーフティネットにもなっているということだろうが、そこには人権侵害というデメリットもあるし、何かあれば警察に乗り込まれるリスクもある。その事実を組員一人ひとりがどう考えるかなのだろう。