勝者と敗者をはっきり分けた消費税増税時の軽減税率導入をめぐる攻防劇。しかし、土壇場のどさくさ紛れに決まった制度の細部に「落とし穴」があったことはあまり知られていない。財政規律の原則論を振りかざす自民党執行部を払いのけ、対象範囲拡大という「満額回答」を得たはずの公明党に思わぬ誤算が生じているのだ。メディアからも勝ち組と報じられる公明党が陥った「愚」とは何か。その舞台裏を探る。

飲食料品全般は対象非対象はあの商品

昨年12月16日に正式決定した、軽減税率制度を含む2016年度税制改正大綱の過程は、権力闘争そのものだった。「軽減税率の税収減を補う財源が足りない」として、対象品目の限定をかたくなに主張する谷垣禎一幹事長ら自民党執行部に対し、劣勢の公明党は16年夏の参院選での選挙協力を盾に菅義偉官房長官ら首相官邸を取り込んで必死に応戦。最後は公明党の支持母体である創価学会幹部が「自民党候補に対する公明党の推薦状を引きはがす」などと一喝して、大逆転で公明党案の「飲食料品全般」を丸呑みさせた。

軽減税率について説明する公明党の井上義久幹事長(右)。(時事通信フォト=写真)

支持者に抵抗感が強かった集団的自衛権を容認する安全保障関連法の成立にも、連立政権の与党として協力せざるをえなかった経緯を考慮すれば、軽減税率の制度設計をめぐる勝利は「100点満点」のはずだった。だが、自民党の閣僚経験者の1人は「決して、そうとも言い切れないのではないか。肝心要のモノが対象に含まれていないのだから」と推し量る。

その理由に挙げるのは、税制改正大綱決定の前日に決まった「飲食料品全般」以外の対象項目だ。まず、自民党と公明党は宅配や郵送で定期購読契約している新聞代にも軽減税率を適用すると決めた。日刊紙のほか、週2回以上発行している新聞を対象とするとの内容だ。さらに宅配率等で条件が厳しくなる可能性もあるが、この線引きでは、インターネットの電子版や駅売りは対象から除かれたものの、「東スポ」や「日刊ゲンダイ」の定期購読も対象に含まれる。政党機関紙でも日刊の「公明新聞」(公明党)と、「しんぶん赤旗」(共産党)は消費税率8%に据え置かれることになった。公明党にとっては、これもまた合格点といえる。