あえて名指しで五郎丸副将を叱る

南アフリカ代表の大金星から中3日の9月23日、日本代表は予選プールの第2戦で、欧州の強豪国の1つであるスコットランド代表と戦った。ジョーンズHCは、再び試合前に選手たちを集め、このような言葉で鼓舞したという。

「スコットランドはいいチームだが、メンタルが弱く、いつも負けている。4年間の努力を信じて、自分のスキル、仲間を信頼しろ」

改めて分析すると、スコットランド代表は、前半をリードされて折り返した場合、ほとんどの試合で負けていた。

「メンタルが弱い」とはこのことを指す。そのため、日本代表はアタック重視のメンバーで、前半から攻撃的なラグビーを仕掛けた。相手の戦意を喪失させる作戦だ。しかし、第1戦の精神的、肉体的疲労は隠すことはできず、前半は7対12とリードされた。さらに、後半だけで5トライを喫して、10対45と大敗してしまった。

つづく予選プール第3戦の相手であるサモア代表は、南アフリカ代表同様にフィジカルに優れたチームだった。しかし、ここで負ければ目標に掲げていた「ベスト8進出」も潰え、金星もフロックとなってしまう。また、サモア代表戦に大敗したら、せっかく火が点いたラグビー人気が盛り下がってしまうかもしれない。このような懸念があったためだろう。当時を振り返り、「南アフリカ代表戦より、サモア代表戦のほうが緊張しました」というベテラン選手もいたほどだ。

サモア代表戦はスコットランド代表戦から中9日。選手たちの休養や、相手を分析するための時間も十分にあった。ただし、間が空けば今度は「中だるみ」が出てきてしまう。そんな選手たちの様子を少しでも見かければ、ジョーンズHCはすぐにこう指摘した。

「昨日の練習はバックスの集中力が悪かった。こういったことを続けるとサモア代表に負ける。アメリカ代表にも負ける。空港にうつむきながら帰ることになる。サモア代表のことを考える前に自分たちのことを考えろ!」

さらに、この4年間リーダーとしてチームを引っ張り続けたFB(フルバック)五郎丸歩を名指しして、こう言ったという。

「五郎丸を見てみろ。今や日本で1番の有名人だ。総理大臣にだってなれるよ。だが、そんなことでは勝てない。ラグビーに集中しろ!」

実は、それまでジョーンズHCは、五郎丸らリーダー陣を名指しして注意することなどほとんどなかった。練習やミーティングで怒りをぶつける相手は、若手選手が中心だったという。だが、ワールドカップの第3戦目を迎えようという大事な時期だ。チームを引き締めるために、意図的に五郎丸の名前を出した、というわけである。