ピーチが拠点とする関西国際空港は、24時間フルに使える2本の滑走路を備えている。便に多少の遅れが出ても欠航することなく運航可能だ。事実、ピーチの就航率は99.1%と、JALやANAを抑えて国内ナンバーワン。定時運航率は78.3%と他社を下回るが、これは多少遅れても飛んで戻ってくることを優先させているため(数字は共に平成27年度)。利用者からすれば「遅れてもいいから出発地に戻りたい」のが本音だろう。17機という少ない機材を使い回す中での割り切りが、「LCCは欠航が多い」というイメージ払拭に貢献した。

図を拡大
目立つのはピーチの欠航率の低さと遅延率の高さ

さらにピーチにプラスになったのが、一言言わねば気が済まない、足元のうるさ型消費者だ。

「関西のおばちゃんたちは安くていいものでないと許してくれないんです。日々、『値上げしたらあかんで』『サービスよくしてや』という千本ノックにさらされていますからね。成田に就航したのも『ディズニーランドに日帰りで行きたいわ』『5000円ぐらいでね』という声をいただいたから。でも、実現させると彼女たちはちゃんと乗ってくれるんですよ。うちの関西-成田路線の平均搭乗率は約90%ですからね」(井上)

コストをかけずに会社の認知度を上げようと、井上は設立当初から積極的にメディアに露出をしてきた。その「顔」は関西ではすっかりおなじみだ。関西の人々は、町でも空港でも見知った「顔」を見かけると気さくに声をかけ、容赦なく感想・要望・不満をぶつける。さらにその後の経緯もしっかりと見守り、改善されれば前向きに利用し、そうでなければダメ出しをする。関西をベースにしたことで、この地域ならではの厳しくも温かい消費者文化がピーチの足腰を鍛え上げた。

だが、井上は満足していない。

「LCCのパイオニアであるアイルランドのライアンエアーは、就航率が99.6%、定時運航率も90%。利益もしっかり出している。でもピーチはライアンをフォローはしますが、真似はしません。ピーチなりのバリューを出します。イノベーションによる顧客価値を提供しますよ」

イノベーションによる顧客価値。そんな小難しい言葉よりも、実際の取り組みを見たほうがわかりやすい。そこから見えてくるのは、ローコスト経営で収益を確保し、顧客に「快適な空の旅」を提供しようと挑戦を続けるベンチャー企業の姿である。