【2】マーケティングの極意
―「見えるもの」より「見えないもの」を見よ

「マーケティングの基本は、顧客が潜在的に求めているものを察知し、満足を提供できるかどうかにある」。鈴木流経営学の第二の特徴は顧客の潜在的なニーズを重視する点だ。ただ、それは目には見えない。一方、顕在的なニーズはPOS(販売時点情報管理)データの売り上げの数字に表れ、目に見える。そこに目が奪われ、また同じものを発注しがちだ。しかし、POSデータは昨日までのヒストリーの数字であり、ミステリーである明日の顧客ニーズとは必ずしも一致しない。結果、売れ残る。

「その廃棄ロスも目に見えます。これに目を奪われると守りの経営になり、発注量を抑えようとする。むやみに発注量を減らせば欠品が増え、顧客は来店してもほしい商品がないため、次第に足が遠のいていく。経営は縮小均衡の道をたどるのです」(鈴木氏)

これに対し、目に見えない潜在的ニーズに目を向けるとどうなるか。例えば、春先でも予報で明日は気温が上がりそうなら、「冷やし中華を発注してみよう」と考える。翌日、汗ばむ陽気の中、来店した顧客は冷やし中華を目にして潜在的ニーズを刺激される。顧客はまた来店しようと思い、経営は拡大均衡に向かう。

目に見えるものより、見えないものにひたすら目を向けるのが鈴木流マーケティングの極意だ。

『なぜ、セブンでバイトをすると3カ月で経営学を語れるのか?』(プレジデント社)

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発売たちまち8万部を突破。各書店でもベストセラー入りしている同書は、不況になるほど注目を集める鈴木敏文氏の経営手法を発想法、マーケティングなど5つの視点から分析。過去の成功体験の呪縛が解けないベテランほど不況アリ地獄に落ちる、と鈴木氏は喝破する。

(若杉憲司=撮影)