國學院大學の学長と明治神宮の宮司。刻々と変化する渋谷に拠点を構える2人のリーダーがグローバル時代を生きる人々に呼びかけた。「今こそ、日本人の本質を大切に」──。
(左)中島精太郎●なかじま・せいたろう
明治神宮 宮司
(右)赤井益久●あかい・ますひさ
國學院大學 学長

永遠の森づくりと共通する人づくり

國學院大學が取り組む「渋谷学」は一般にも公開され、講演だけでなくフィールドワークを交えながらも展開している。(写真は平成27年11月開催時の様子)

【赤井】本学ではキャンパスがある渋谷の街を社会・文化・民俗・宗教など多様な観点から考察する「渋谷学」に取り組んでいます。繁華街と文教地区が共存する渋谷は、実にユニークなエリア。そして70万平方メートルもの代々木の杜をたたえた明治神宮の存在感も絶大です。

【中島】明治天皇、昭憲皇太后を奉祀する神社のため全国約40カ所の候補から選ばれたのが、この地でした。しかし当時、一帯は畑地や荒れ地。代々木の杜と呼ばれる鎮守の杜は、10万本の献木と、のべ11万人に上る青年たちの勤労奉仕によってつくられた人工森なのです。

【赤井】1920年に明治神宮が創建され、約100年後には人工林が自然の森になる、つまり循環的に成長する永遠の森となるよう、綿密に考えられた計画と伺いました。

【中島】はい。当時、伊勢神宮や日光東照宮のようなスギ林の形成を推す声もありましたが、林学者たちが関東ローム層にはクスやシイなど照葉樹が適していると判断し、さらに多様な樹木を配して、自立した森として生き続けるように設計したそうです。

【赤井】命が尽きた葉や木も次の命の糧となる。将来を見据えて、「今」を生き、活かすことは教育にも通じます。

【中島】ええ。当時の人々は自ら森の完成を目にすることを望みませんでした。それは未来に委ね、「今」なすべきことに一心不乱に勤しんだわけです。神道で「中今(なかいま)」といいますが、人は遠い過去から無限の未来へつながる「今」に生かされている。「今」を精いっぱい生きるべきなのです。そして子孫である自分がいつか祖先になる。その連続性に大きな価値を覚えますね。

【赤井】当時の人々の精神性に、私たち大学人もならわねばなりません。在学期間の「今」の連続のなかで数十年もの未来を見据え、学生たちに生きていく力の種を授けることで、個性を輝かせ、社会の中核を担う、自立する人材として送り出したい。そんな教育、人材育成を中期計画に沿って実践しています。