2016年1月15日(金)

「頑張りすぎず自分らしく生きる」ってどういう意味でしょう

為末大の悩み相談室【18】

PRESIDENT Online スペシャル

答える人=為末大 撮影=鈴木愛子
いまやツイッターのフォロワー数33万人。世界陸上のメダリストで、ベストセラー『諦める力』の著者、為末大さんが、世界の問題から身近な問題まで、「納得できない!」「許せない!」「諦められない!」問題に答えます。(お悩みの募集は締め切りました)。
お悩みファイル18■「頑張らない」と「サボる」の違いは?
よくメンタル本を愛読しているのですが、自分らしく幸せに生きるなら、まず嫌な仕事を頑張らない。ワクワクしない仕事はしなくてもいい。それより大事な家族や自分を大切にした方が収入が上がる! などと書いてあります。それは手抜きをしたりサボったりすることと何が違うのか、疑問に思っています。どう理解すれば良いのでしょうか。(女性・会社員・28歳)

メンタル本や自己啓発本は、ざっくり2つに分けられますよね。許しのアプローチか、しごきのアプローチか。僕のアプローチはこの相談室を含めて「攻めの許し」みたいな感じかなと思います(笑)。許しのアプローチだけだと本当に頑張らなくなっちゃう人もいるので、領域を絞って頑張らせるということが大事なのかなと。言い換えれば、何は頑張らなきゃいけないことで、何が頑張らなくてもいいのかをちゃんと分けるということです。

メンタル本で「頑張らなくていい」と言っていることの本質は「頑張らなくていいはずのことを頑張っていませんか?」ということなんだと思います。本当に何もかも頑張らなくなって、何の価値も生み出せなくなると、誰かに依存しなくては生きていけなくなりますから。「頑張らなくてもいいはずのことを頑張っている」というのはつまり、自分にとって重要なこととそうでないことの選別ができていないということです。以前この相談室でとりあげた「周囲の期待に応えようとして疲れ切ってしまう」というお悩み(*)も根っこは同じで、すべての人の期待に応えようとするから疲弊してしまう。「どう思われたっていいけど、この人だけはがっかりさせたくない」とか「あの人がいいといってくれたら他の人になんと言われようと気にしない」というふうに思えればかなり楽になると思います。*http://president.jp/articles/-/16949

全部頑張らないわけではなく「これだけはちゃんとやりたい」という線引きがあれば「さぼっている」には直結しないと思います。僕は最近、靴下がついに1種類になりました。1種類を白、灰色、紺色とそれぞれ3足ずつあります。これをローテーションして履いています。靴と靴下の相性、服と靴下の相性が気になって、朝それでけっこう時間をとられていましたが、あるとき全部を靴下からスタートすればいいことに気づいてシステム化しました。靴下からスタートすると、その下にくる靴もその上にくるパンツも決まるんです。季節によって厚さは変えますが、ワンシーズン1種類3色でいまのところうまくいっています。靴下に関して僕は頑張らないことを決めましたが、毎日違う靴下を履きたい、靴と完璧に合わせたいという人は頑張ればいいと思います。自分が妥協できる対象や範囲かわかるほど、頑張るべきところで頑張るための余力が残せますよね。仕事もいつも全力だと疲れ切ってしまうので、メリハリが大事です。

現役時代、20代前半の頃までは、思いついた最高の練習をすべてこなすことができたのですが、ある年齢を超えると練習をやりすぎると疲れが抜けにくくなり、アキレス腱の痛みが出て、思いっきり跳ぶジャンプ――プライオメトリックといいます――ができなくなった時期がありました。これはバーンと地面を蹴って跳ね返る力を鍛える練習です。痛めたアキレス腱を使わないでジャンプする方法はないだろうかと考えて、ふくらはぎを使わないスクワットジャンプに変えました。これだと足の裏をベタッと着いてジャンプするのでアキレス腱は痛くないんです。もともとの練習の中心要素が分かっていたから、別の練習に置きかえることができたんですね。

僕はこれを「シェフから主婦へ」という言葉で表現していました。シェフは好きな食材を集めて最高の食材で料理できるけど、主婦は残り物も含めた冷蔵庫の中のものでなんとかするしかないのと似ているなと思ったんです。条件が変われば、頑張り方も変わらざるをえません。傍から見れば、それが「手抜き」や「サボり」に見えることもあるかもしれませんが、それは「前と同じ方法では頑張らない」「自分に合わない方法で頑張らない」ということなんだと思います。お答えになっているかどうかわかりませんが。

為末 大(ためすえ・だい)
1978年広島県生まれ。陸上トラック種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2014年10月現在)。2001年エドモントン世界選手権および2005年ヘルシンキ世界選手権において、男子400メートルハードルで銅メダル。シドニー、アテネ、北京と3度のオリンピックに出場。2003年、プロに転向。2012年、25年間の現役生活から引退。現在は、一般社団法人アスリート・ソサエティ(2010年設立)、為末大学(2012年開講)、Xiborg(2014年設立)などを通じ、スポーツ、社会、教育、研究に関する活動を幅広く行っている。
http://tamesue.jp
『為末大の未来対談』(プレジデント社)
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[著] 為末 大  

スポーツ、教育、ビジネスの世界で活躍中の元プロアスリート・陸上メダリストの為末大がこれから10年後の近未来を見据え、「社会が科学や技術の進歩によってどのように変わっていくのか」という問いを、ノーベル賞受賞者から若き起業家まで、10の先駆者たちに投げかけた。

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『諦める力』(プレジデント社)
諦める力

[著] 為末 大  

前向きに「諦める」ことから、自分らしい人生が開けてくる――。何かを諦めながら何かを選び取る。その繰り返しの上に「自分らしさ」が生まれてくる。

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