PTで陣頭指揮にあたった大塚耕平内閣府副大臣(金融担当)は5月下旬、プレジデント誌の取材に対し次のように述べた。

「現実的で最大限の善後策を講じながら進めてきた。事業者については、事実上の適用除外となっている。その情報が正確に伝わり、貸金業者側がしっかり運用すれば影響は極小化できると思っている。問題は個人についてで、今後どのような影響が出るか注視していく必要がある」

また、施行日が夏の賞与支給日前とあって、タイミングとしてどうかという議論も庁内ではあったという。しかし、時期をずらしても、結局は同じ議論が沸き起こるだけという認識の下、慎重な検討の結果、法の定めどおり実施することを決定したという。さらに、議員のなかにも賛否両論があったことを大塚副大臣は明かす。

「06年、法案を強力に推進した与党・自民党議員のなかから今回の完全施行について『本当に大丈夫か』と危ぶむ声が出た。また民主からも『あのとき本当は反対だった』と今になって訴える議員がいた。どちらも責任ある発言とは言い難い。多重債務者を発生させる環境要因を減らしていくという法改正の目的、主旨を曲げずに粛々と進めていく」

さまざまな思惑が国会議員のなかにも垣間見えるが、国権の最高機関である国会での“全会一致の重み”を尊重し、判断したという。その道筋は間違っていないだろう。全会一致で成立した法案を一度も実施することなく、なし崩しにすれば、立法府の存在意義を失墜させてしまうからである。

しかし、それでもなお、完全施行に疑問を呈する声はある。前出の笠虎崇氏はこう語る。

「今回の改正は“平成の禁酒法”と言えるのではないか。金利の引き下げと総量規制を同時期に実施することで、業者側が過剰反応して厳しい審査となり、借り手側は選択肢が著しく狭くなる。多重債務者を救済する目的の法律が、かえって多重債務者予備軍を増やし、逆の方向に進む恐れがある」