スタッフにも求めた勝つための準備

──エディー・ジョーンズと選手に軋轢などはなかったでしょうか。

ずっとギリギリのチーム運営でした。その証拠に、日本代表のスタッフも4年間でかなり入れ替わっています。彼のスタンスは常に、結果がすべて。勝たなければ好かれても意味がない。目的のためには衝突も全く厭わない。練習量も、スタッフへの要求も、エディーがチームをギリギリのところに追い込みながら、最後までやらせ切った。だからこそ勝てた。そこが彼の最も優れた能力かもしれません。

──岩渕さんも12年、36歳の若さでGMに就き、日本ラグビー協会で大胆な改革を推進されてきました。

私が幸運だったのは、19年に日本でW杯の開催が決まっていたこと。大会の成功のためには日本代表が予選を突破し、トーナメントを勝ち上がることが必須の条件でした。今こそ変わらなければという認識が日本協会の中にあった。そうでなければ私にGMのオファーは来なかったでしょう。変革を実行する中で代表チームがウェールズ、イタリアといった格上の強豪に勝ち、結果を出してきたことで期待感が高まったのも大きかった。

“強豪国に勝つ”という文化の継承

──次のW杯、東京五輪に向けて。

これからが大変になりましたよね。日本に対して油断して戦うチームはなくなり、研究もされる。世界のトップクラスとの差はまだまだある。その差を縮めるために、強化のシステムをつくらなくてはいけない。強豪国と試合をすることは重要ですが、欧州の6強(イングランド、スコットランド、アイルランド、ウェールズ、フランス、イタリア)、南半球の4強(ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチン)は毎年定期戦を行っている。そこに入れない日本は、決定的な差をつけられている。仕組みをなんとかしなければなりません。

南半球4強国のリーグ、スーパーラグビーに、来年から日本チームのサンウルブスが加わる。一つの大きな転換点。サンウルブスは日本代表に近いチームになります。

──エディー・ジョーンズが日本代表監督を離れてしまいます。

選手がより主体的になり、どんな相手に対しても勝つという文化を継承しなければいけない。私もかつて日本代表でプレーしましたが、強豪国と試合するとき、お客さんは絶対勝てないと思って見に来るし、私たちもどこかでやる前に負けていた。しかし今回、“強豪国に日本代表が勝つ”という文化ができた。ファンも勝利を期待して見に来てくれる。指導者が代わっても、この文化は絶対に継承しなければいけません。

ラグビー日本代表ゼネラルマネージャー 岩渕健輔
1975年、東京都生まれ。青山学院大在学中に日本代表に選出。神戸製鋼へ入社後、ケンブリッジ大学修士課程を修了。2000年に日本人で初めてイングランドプロリーグのサラセンズでプレー。09年日本ラグビー協会に入り、12年より現職。
(嶺 竜一=構成 松本昇大=撮影)
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