――「ブラック企業」が話題になっていますよね。でも大きな声では言えませんが、私が勤める会社は競争がない業界のトップで、超「ホワイト企業」なんです。

それはよかったですね。では仕事の悩みなどないではないですか。

――毎日9時5時で席に座っていなくてはいけないのに、暇なのが悩みで……。

僕も若いころ、仕事がなくて暇な時期がありました。仕方がないので本を読んでいると、上司が怒るのです。「何してるんだ」と。「仕事が済んだので、本を読んでいるのですが」と返答したら、「会社は本など読むところではないぞ」と。

会社では本を読んではいけないのだなと思って、試しに国語辞典を読み始めたら、怒らなくなった。何か調べ物をしているように見えたのでしょう。

――なるほど。

当時、1970年代後半だったと思いますが、岩波の国語辞典で「カバ」を引いてみたら「陸上に住む動物の中では象に次いで大きい」と書いてあったのです。そのときにふと、「サイも大きかったはず」と思い、同じ辞典で「サイ」を引いたら「陸上に住む哺乳動物で、象に次いで大きい」と書いてあったのです。

――それはすごい発見ですね。

これは矛盾していると思い、すぐに岩波書店に電話をして「国語辞典にはこう書いてあるのですが、カバとサイとどちらが大きいのかわかりません。教えてください」と言うと、担当者が「えっ」と、しばらく絶句して「調べてお返事します」と。

そして、その次の版からは「象に次いで大きい」の記述が消えました。

1週間ほどしてから、家族で動物園へ行って、カバとサイをじーっと見ていたら、カバの目がえらくかわいい。そういう出来事があって、僕はカバが好きになりました。

――だから出口さんの本棚には、カバの置き物がたくさんあるのですね。

僕が買ったことは一度もないのですが、社員からのプレゼントです。

ちなみに、子会社へ出向していたときも暇でした。

そんなとき、多くの出向者は、プロパー社員の人が上げてきた書類の細かいところをつついたりして無理に「仕事をしている」のですが……。

――親会社から出向で来て、一番周囲に煙たがられるパターンですね。

そんなことをしても生産性の向上には一切結びつきません。プロパーの人が無駄な時間を過ごすだけでしょう。それよりも、どうしても時間をもてあますときは1人で勉強したり、本を読んだりすることのほうがはるかに会社のためになると僕は思います。

Answer:とりあえず、国語辞典を読んでいると誰も怒りません

出口治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命保険会長兼CEO

1948年、三重県生まれ。京都大学卒。日本生命ロンドン現法社長などを経て2013年より現職。経済界屈指の読書家。
(構成=八村晃代 撮影=市来朋久)
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