天ではなく、世間に徳を積む

私はこれまで、インタビューなどを通して1000人以上の世界のトップリーダーにお会いしてきました。なかでも「政治家」という肩書を持つリーダーたちは、運に対して一方ならぬ思い入れがあるようです。というのも、彼らはどんな要職についていても数年に一度は必ず選挙を経験します。一国の大統領であっても、首相であっても、次の年には何者でもなくなる可能性があるのです。ある意味、ほかのどんな職業よりも運や人気に左右される立場だといえるでしょう。そのため、彼らは「時代」や「場の空気」といった目に見えないものを読み取る能力が非常に優れています。そして、ゲン担ぎや「Luckを稼ぐ」ことを好んでする人も多くいます。

経済ジャーナリスト 谷本有香氏(写真=時事通信フォト)

といっても、彼らがするのは神社にお参りをしたり、幸運のアイテムを持ったり……という、天に自分の運命をただ預けるようなことではありません。

どちらかといえば「徳を積む」「正しい行いをする」といった、自分の努力次第でできることです。たとえば、車一台走っていない夜道でも赤信号は決して渡らなかったり、仕事の現場ではアルバイトのようなスタッフの名前まで覚えたり。過去に私の番組に出演した政治家で、カメラに映っていないことがわかっているのに、スタジオに出入りするときには必ず90度のお辞儀をする、という方もいました。彼らには、「どんな場面でも自分は公人である」「自分の役割に背かない、お天道様に顔向けできる行動をしなくてはならない」という高い意識があるのでしょう。

特に、政治家に高潔さを求める傾向が強い日本では、どんなに能力が高くても「公人としての振る舞い」を徹底できないと政治生命は長続きしません。有権者である私たちから「利己的な考え方をする人だな」「自分が有名になることばかり考えている」と思われてしまったら一巻の終わり。「政治活動に邁進する、利他の精神の持ち主だ」というイメージが何より重要なのです。

そのための「社会をよくする以外のことには興味がありません!」というアピールなのか、寝癖がついたまま演説を行ったり、あえてお洒落とはいえない服装をしたりする人もいます。また、ほとんどの政治家は目立つような高級品を身につけません。なかには奇抜なファッションで記憶に残ろうとする人もいますが、あまり長続きしないことが多いようです。タレントなどと同じ人気商売とはいっても、政治家には「人望」や「信頼」が欠かせないからです。彼らが常日頃行っている「徳を積む」行為は、「天」に対してではなく、世間に対してのパフォーマンスなのかもしれません。