A. 「アンカリング効果」にやられましたね。

定価の値札に赤線を引いて半額に値下げされていたら「これは安い!」と思い、あまり品質を確かめないまま買ってしまう人がたくさんいると思います。

しかし、そのスーツの定価は本当に5万9800円でしょうか。バーゲンの前に同じ商品がその値段で販売されていればよいのですが、ひょっとしたらバーゲン専用品で5万9800円の価値はないかもしれません。

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なぜ値下げ表示に人は弱いのか。それは行動経済学でいう「アンカリング効果」によるものです。アンカー、すなわち船が錨をおろすように、人間は最初に示された数字に強い影響を受けます。

このケースでは5万9800円という定価がアンカーになり、「2万9900円なら約3万円も安い!」と思い込んで買ってしまうわけです。赤線が引かれている定価が本当の定価より高い場合、販売価格が実際以上に安くなっているとの誤解を消費者に与えるために景品表示法に引っかかりますが、この手の値引き表示は後を絶ちません。

アンカリング効果を使ったワナを見抜くには、2つの方法があります。

1つは、価格が品質に見合ったものであるかどうかを見極める目を持つこと。もう1つは、買いたいものがあればバーゲン前にあらかじめ価格の相場を調べておくこと。1つ目の方法は実際には難しいので、2つ目の方法が現実的な手段になるでしょう。

▼もう1問応用問題にTRY!

Q. ドバイのスーク(市場)でかわいい木目細工の額を見付け、店主に値段を聞くと「100ドル!」。絶対に3倍は吹っかけていると考え「高い! 20ドルなら買おう」と言ったところ、店主はしばらく考えてから「わかった。20ドルで売ってやろう」。この買い物は損か得か。

A. 損。これは筆者の実体験で、ドバイの空港で同じものを5ドルで売っていた。

大江英樹(おおえ・ひでき)
1952年、大阪府生まれ。野村証券で個人資産運用業務、企業年金制度のコンサルティングなどに従事後、2012年オフィス・リベルタス設立。日本証券アナリスト協会検定会員、行動経済学会会員。日本経済新聞電子版で「投資賢者の心理学」連載、その他『定年楽園』『その損の9割は避けられる』など著書多数。近著に『老後貧乏は避けられる』。
(宮内 健=構成 getty images=写真)
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