わずか1年の配属でも売却の対象に

IBMに限らずこうした悲劇は何度も繰り返されてきた。最初に大規模な事業売却の嵐が吹き荒れたのは平成不況の2000年前後だ。

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こんなにある!「部門切り売り」のニュース

たとえば99年7月に旭化成工業は食品事業部を売却した。一緒に移ったのは子会社の人員を含む約1300人。わずか1年前に事業部に配属された慶応大学卒の45歳の男性社員はこう語っていた。

「あの日のことは一生忘れません。午後3時に全員集まれという指示があり、何事だろうと思って行くと、いきなり『食品事業部を売却する。ついては事業部の社員は子会社の社員と一緒に移籍してもらいたい』と言うのです。驚いたというより、何が何やらわけがわからない、ただ呆然と聞くしかありませんでした。すぐにNHKニュースで知った得意先から『おたく売られるんだってね』といった電話がバンバンかかってくる。相手の声も上の空で、受話器を握りしめたまま、いったい俺たちはどうなるのかと不安で頭がいっぱいでした」

その後、本社の食品事業部の社員370人は子会社の旭フーズに転籍した。移籍した直後の彼は「この会社の加工食品部門は売上高も小さく、買収によって利益が出ればいいですが、赤字になればどうなるのか先のことはわかりません」と不安そうに語っていた。

だが、それからの旭フーズは、親会社により食品会社の買収が繰り返されたことから、今では旭化成の名残を留めていない。

事業再編などの構造改革は企業の成長に向けた不可欠の戦略だが、事業と一緒に切り売りされる社員は、たまたまその部署に配属されただけで、会社に残る者とは紙一重の差でしかない。売られる社員もショックだが、残った社員にもいつか売られるかもしれないという不安感を与え、モチベーションの低下を招きやすい。

ショックを和らげ、社員を奮い立たせるには構造改革と同時に意識の変革も必要になる。