2015年12月13日(日)

「乳がん妻」がパートに出る3つの理由

ドキュメント 妻ががんになったら【14】

PRESIDENT Online スペシャル

著者
桃山 透 ももやま・とおる
フリーランスライター

1968年、大阪府生まれ。ビジュアルリテラシー(東京支部)所属。大学卒業後、金融系会社の営業、コピーライター、出版社の編集者、業界新聞の編集長を経て、独立。主にビジネス書、実用書、医学書関連の執筆・編集・監修に携わる。得意なジャンルは整理術、手帳術で、著書に『サクッと1分間 整理・ファイリング術』などがある。

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フリーランスライター 桃山透=文
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お金がない! 命を削るかもしれない妻の決意

9月から、妻がパートに出るようになりました。一番の理由は、恥ずかしながら私の稼ぎだけではやっていけないからです。といっても、はじめから妻はパートに出るつもりだったわけではありません。いうまでもなく、がんの治療を受けている自分の身体が、パートの仕事に堪え得るか、心配だったのです。

まず、妻は通院している病院のソーシャルワーカーに、お金で困っていることを相談してみました。すると、障害年金を勧められたのです。そこで妻は藁にもすがる思いで年金事務所を訪ねたのですが、「がんということだけでは障害年金は下りない」といわれ、主治医からも「がん患者さんのなかでは元気だから」ということで、現段階では障害年金の選択肢はなくなってしまいました。

たしかに妻の場合、治る見込みのない乳がん転移の肝臓がんとはいうものの、寝たきりの状態ではなく、骨に転移するなど、痛くて仕方がないわけでもありません。疲れたり、具合が悪くなったりすることはあるものの、それほど日常生活に支障をきたしているわけではない、と判断されたのです。

こうなると自分でお金を稼ぐしかない、と涙ながらに思った妻は、不安を覚えながらも、パートに出る決意をしました。

10時から18時の休憩時間1時間を除く7時間労働を週に3日、大手スーパーの手芸屋のパートに出ることを妻から聞いたとき、私は大反対でした。忙しく動き回ったり、重い物を持ったりすることはないとはいうものの立ち仕事が多く、命を縮める行為にしか思えなかったからです。

妻がお金のことで追い詰められていたのは事実ですが、8月に乳がんブログ村で知り合った同世代の友人2人が亡くなったショックもかなり大きく、少々ヤケになっているように思えました。また、「お金に困っているのに、治療にばかりお金をかけたくない」という思いにもとらわれていたのです。お金の心配がなかったとしても、治療を続けるのは精神的にも肉体的にも疲れることが多いため、妻がそう思うのも無理はありません。

たぶん妻はうつ状態だったのでしょう。パートに出るようになってから、「いままでお金のことに関しても、病気のことに関しても、こんなにも絶望することはなかった」と話していました。

「何も打開できずに死ぬのはイヤ」、パートに反対する私に、妻はそう訴えました。「限りある命なら、この身体を使って、できることをしたい」ともいってきました。

妻の決意を聞いて、しばらく私の身体はピクリとも動きませんでした。たしかに妻のいうとおり、もっとお金を稼がなければ、治療を続けることはできないのです。本来、お金の問題は妻が考えることではありません。その責任のすべては、私にあるのです。けれども、お金がないという現実を、至急どうにかしなければならなかったのです。

ジリジリと灼けるような焦りを感じ、改めて自分の甲斐性のなさを痛感するしかありませんでした。とにかく一刻も早く稼ぎを増やし、妻のパートを辞めさせなければ大変なことになる、と思いました。

もちろん、私も仕事の依頼がくるのを、ただじっと待っているわけではありません。とにかく目先のお金に困っているため必死に営業をかけ、短期で入金の速い仕事を中心にこなしています。

とくにトラブル案件はギャラに色をつけてくれるため、進んで引き受けるようにしています。精神的にも肉体的にも、きつい仕事がほとんどですが、苦しみながらも自虐的に「独りブラック企業状態」を楽しむようにしているのです。「きつい仕事ほどスキルアップになる!」「妻の苦しみと比べれば、こんな仕事、苦労のうちに入らない!」と自分にいい聞かせながら、仕事に取り組んでいるのです。

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