2015年12月12日(土)

真心を包み込む、リンボウ先生の手紙の流儀

PRESIDENT 2015年7月13日号

田端広英=構成 干川 修(林望氏)、田中宏幸(手紙)=撮影
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昨年、家族へしたためた手紙をまとめた『イギリスからの手紙』を上梓した「リンボウ先生」こと作家の林望さんに、真心を伝える手紙の要諦を聞いた。

自作のカードで手紙を楽しむ

平安時代の貴族には「後朝(きぬぎぬ)の文」という習慣がありました。当時の通い婚では、ご婦人の閨に通う男性は夜明け前に引き揚げるのが礼儀でしたが、自邸に帰ったらすぐに歌を詠んで、まだ一夜の余韻が残っているうちに女性のもとへ届けなければなりませんでした。これが「後朝の文」。色男であるには、まめでなければならなかったわけです。

作家・日本文学者 林 望氏

異性にもてるということに限らず、今でも他人とよい関係を結ぼうと思ったら面倒くさがってはいけません。すでに印刷済みの「お礼状」に署名だけして送るなんて、実に失礼なことだと思います。例えば、作家の丸谷才一先生は、私が本やお中元をお送りすると、必ず表書きも文面もすべて自筆の葉書をくださいました。そういうところに丸谷先生のお人柄が表れている。ほんの2、3行の手紙でも私のために書いてくださったと思うと嬉しかったですね。

そういうよいところはぜひ学びたいと思い、私も必ず年賀状には直筆でひと言添えるようにしています。ただし私の場合、普段の手紙は、パソコン上に用意してある便せん用のヘディング付きシートに書き、プリントアウトした後、直筆でサインを入れるようにしています。

手紙は直筆であるかどうかよりも、一人ひとりの相手に向けて書くという姿勢のほうが大切です。相手と自分との関係というのは、常にユニーク(唯一、独特)なものです。だから、それが仕事上の付き合いにしろ、個人的な交誼にしろ、相手と自分にしかわからないような共通の話題を織り交ぜて書く。「この間、食事した寿司屋は美味しかったですね」などというものでいいのです。また、例えばお中元にメロンをもらったら、必ず食べてから感想を添えてお礼を申し上げる。箱も開けないうちに書いたお礼状なんて、まったく意味がありません。

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