生産と開発の組織の壁はなくなった

――3年間研修の経験を積むと、研修先の開発の人たちと、個人的な仲間意識も強くなるのではありませんか。

【小川】個人的にも日常的にもメールや電話でいろいろなことを聞いたり相談したりしているようです。その意味でも、組織の壁がなくなっていますね。

――生産と開発の関係も一昔前とはまさに様変わり、といったところですか。

【宮脇】そうは言っても、昔から壁があって全く交流がなかったということではありませんでしたよ。ただ、昔はお互いに相談といえば、決められた事項に限られていました。今は違います。未決の状態で相談を持ちかけられます。そのおかげで、“こんな感じじゃないか”とお互いに柔らかいアイディアの段階から話ができます。

われわれのように管理職の場合は立場上、相談に臨む姿勢がある程度杓子定規になることもあります。しかし、研修を経験した若い人たちが開発の人たちことばを交わしているのを小耳にはさむと、ときには“それ本当か”と耳を疑いたくなるようなところから話をしています。アイデアが柔らかいうちに話をしていると、とんでもない方向に走ってしまうことはありません。むしろ、開発が想像しているよりも高いレベルの製造ができるという場合もあります。

『ロマンとソロバン』(宮本喜一著・プレジデント社刊)
――それがスカイアクティブ搭載車の生産を支えている。

【宮脇】スカイアクティブになって、昔とは全く違った雰囲気になっていますよ、間違いなく。

――新型ロードスターの試作車のデザインを、生産部門の人たちに対してプレゼンテーションした、これで関係する部門の人たちの意識がひとつにまとまった、という趣旨のことを主査の山本さんがお話になっていました。

【藤井】そうです、あのとき以降、意識は変わりましたね。昔は、提示されたデザインを見て、たとえば、「その部分はそんなに絞れないぞ」で話は終わっていましたから。

【宮脇】今では、デザインと密接なつながりのある車体部門だけでなくエンジン生産の人たちも、デザインセンターに見に行っていますよ。

「これのエンジンをあんたらは、立ち上げんといけんのよ」
「ロードスターに、しょうもないエンジンなんか積むわけにはいかん」

じゃぁ、どンだけ真剣に考えてエンジンつくろうか……、という話になりますね。

ちょっと前までは、エンジン生産にいたら、開発中のクルマを見ることもありませんでした。だから、量産の間際になって、「このモデルに積むンか」といった調子です。

――誰もがひとつのモデルに対して同じ物差しを持つようになっている、ということでしょうか。

【宮脇】昔は、開発中のモデルを、一部の人だけが見に行っていました。その意味ではずいぶん風通しがよくなっていますよ。希望があれば見に行けますから。ひと昔前までは、クレイモデルなんか見たこともありませんでしたね。今では見るだけでは終わりません、開発中のモデルごとに、その商品性までプレゼンテーションをしてもらっていますから。

【藤井】そのプレゼンテーションのとき、その場で関係する部署同士で、検討や話し合いが始まります。その場にいると、つくり手の誇りのようなものさえ感じられます。