佐々木には、真剣に話し、聞く孫の顔が白い鬼のように見えたという。気魄の“魄”である。一瞬でも、百戦錬磨の技術者にそう感じさせた孫の姿勢には並々ならぬものがあったのだろう。

これ以降も、佐々木は陰に日に孫の後ろ盾となっていく。なかでも孫の恩人としての立場を決定的にしたのが、銀行融資の保証人になろうとしたことだ。82年、日本ソフトバンク(当時)を起業してまだ間もない頃、ソフトの卸を業務にしていた孫は、運転資金に行き詰まり、第一勧業銀行(現みずほ銀行)麹町支店に1億円を無担保で貸してくれるように頼んだのである。

「そこの支店長は、孫さんに惚れ込んだようだが、1億円という巨額の融資を一支店長の裁量では決められません。何か担保はないのかと聞く支店長に、孫さんは苦しまぎれに僕の名前を出したらしい。銀行側は驚いて本部の役員を介して照会を求めてきたのですが、僕は『孫をたのみます』と答えたのです」

そのとき佐々木は、万一の場合に備えて自宅と退職金を担保に差し出すつもりだったと語る。こうして融資は実行され、孫は危機一髪のところで救われた。孫はそのときの恩を胸に刻んだのである。

(敬称略)

シャープ元副社長 佐々木 正
1915年、島根県生まれ。京都大学工学部卒業。神戸工業(現富士通)取締役を経て、シャープ副社長、顧問を歴任。電卓の生みの親であり、シャープを日本有数の家電メーカーに育て上げた。液晶、太陽電池など日本の先端電子技術の開発に携わり、半導体産業の礎を築く。現在、NPO法人新共創産業技術支援機構理事長。『はじめに仮説ありき』『原点は夢 わが発想のテクノロジー』『生きる力 活かす力』など著書多数。