疑問4:「個人番号カード」を使ったらマイナンバーが漏えいするのでは?

とはいえ、希望者に無償で配布される「個人番号カード」の裏面には、12桁の番号が目視できる形で記載されている。個人番号カードは身分証明書としても利用できるので、例えば店舗での会員登録などの際に身分証明書として提出したとき、個人番号カードを受け取った従業員が12桁の番号をこっそりコピーしてしまったり、あるいは、民間企業が保存する従業員のマイナンバーが、外部に漏れる……という可能性はある。こうして漏えいしたマイナンバーが、名簿ブローカーなどを通して悪意ある第三者に転売され、なりすましなどで悪用される危険性は否めないのではないだろうか?

「マイナンバーでは、本人確認を実施する場合、『番号確認』と『身元確認』という2つの概念を規定してある」(楠氏)という。つまり、12桁の番号と写真付きの身分証明書の2つを確認して初めて本人確認が成立すると法律で定められている。企業が従業員のマイナンバーを収集する際も、通知カード(番号確認)と免許証など官公庁が発行した顔写真付きの各種身分証明書(身元確認)の確認が必須となる。

つまり、クレジットカードの番号のように、マイナンバーの12桁の番号だけを不正に入手しても、なりすますことができない制度設計がされているわけだ。以前、「オウム逃亡犯最後の1人」と言われた高橋克也被告が、実在する人物の住民票を悪用し建設会社に勤務していたことが話題になっていたが、このようななりすましを行うことは、今後は難しくなる。逆に、表面は顔写真付きで本人確認ができ、裏面には12桁のマイナンバーが書かれた個人番号カードを紛失すると面倒なことになる。

疑問5:マイナンバーを盗まれたらどんな危険が起こる?

そして、もう1点。「そもそもマイナンバーは、年金や税金の支払い業務に利用するためのもの。悪意ある第三者にとって、収集することのインセンティブは小さいのではないか」(楠氏)。つまり、マイナンバーを不正に集めたところで情報としての価値が薄く、ベネッセの個人情報流出事件のときのように名簿業者間で流通するといった状況は考えにくいというのだ。加えて、不正に取得しただけで個人情報保護法よりも重い、マイナンバー法の罰則が待ち受けている。悪意ある第三者からすると、ますます「盗む」インセンティブは働かない。

本記事の取材は内閣官房情報通信技術総合戦略室で行った

実際、「悪人にとって盗んでも価値のない番号のために、なぜこんな厳しい罰則規定を設けたのか? と各所で説明を求められる」(楠氏)こともあるそうだ。ただ、番号による国民の個人情報管理については、1960年代の佐藤内閣の時代から導入を目指していたが、頓挫した過去がある。その後も、2000年代の住民基本台帳ネットワークの稼働の際、情報漏えいに対する懸念の声が多く上がった。今回のように厳格な本人確認と重い罰則の規定は、過去の経緯において示された国民の感情に応えるために必要になった措置と言えよう。