異なる意見をどうやってすり合わせるか

しかし、個々の表現が別々の方向をさしているかに見える場合もある。意見が食い違ったとき、互いの感覚をどう調整するのか。佐久間氏が続ける。

「ブレンダーが書いたコメントを交換したときに意見が一致しない場合は、なぜ感じ方に差があるかを確かめるためにもう一度テイスティングをし直します。ただし、無理やり合わせようというのではありません」

むしろ互いの感覚の違いを理解するプロセスであると森氏は言う。

お互いの違いを認め合ったうえで、共通認識を持つ ニッカウヰスキーのブレンダー室に並ぶウイスキー原酒のサンプル。互いの意見が合わなかったときは、討論したり相手に意見するのではなく、すぐに皆で確認して認識をひとつにする。

「3人で同じ原酒をテイスティングして、2人は樽の個性が強く出ていると表現し、1人はそれとは別の華やかな香りが強いと感じたとします。そのときは無理やり樽感が強いという表現に合わせるのではなくて、むしろ華やかな香りを強く感じた人がもう一度自発的にテイスティングをやり直し、他の2人が感じている樽感を認識します」

意見が食い違ったときに尊重されるのは多数派。これはどんな現場でも同じだろう。ただ、ここで学ぶべきは異なる意見を述べたブレンダーが、自らその原因を考え、多数派の考えを理解しようとしている点だ。こうした作業を繰り返すことで、おのおのの個性を保ちつつも、数値化しにくい感覚を共有することができるようになる。