09年度に、昭和恐慌(1930年頃)の際に起きた「農村の危機」の内容と背景を述べる問題は棒グラフ(産業別就業者数の推移)を見たうえで考えるもので、一見簡単そうだが、得点ゲットにはかなりの分析力が求められる。※塚原氏による解答例は本文末にて公開。

鉱工業や商業・サービス業の就業者が増加した高度成長期と比べると、昭和恐慌前後は農林水産業の就業者はほぼ一定。このことから、「鉱工業などによる労働力吸収が停滞している」こと、さらに、「農業就業者が過剰、あるいは、過剰な労働力が農村部に滞留していた」と推論・仮定できるか。

知識と、初見資料やデータを読み解いた内容とで、「つまり、こういうことがいえる」とプレゼンテーションするような感覚が東大の近現代史の解答には必要なのだ。

「未知のものにどう対処するかという意味では、ビジネスパーソンがしている思考に似ているのかもしれません」(塚原氏)

初めて訪ねる営業先の担当者のパーソナリティや先方のニーズはそれぞれ。ただ単に自社の商品やサービスを提供するだけでは、相手は満足しない。現場現場での臨機応変な対応力や、機敏な分析力を顧客は期待する。それと同じように、受験生にちょっと無理めの課題(出題)を与える東大の教員は、なんとか問題に食らいつき、思考をフル回転させ、想定した以上の解答を期待しているのだろう。

将来的に官庁で働くことも多い東大生は、「いわば僕らを支配する人。だから東大は入試で、一段も二段も上の思考力・分析力・想像力を持つ学生を発見しようとしているのです」(塚原氏)。

塚原氏による解答例
【2012年度】 日露戦争により南満州、第一次世界大戦で山東省に権益を獲得したうえ、資本主義の発達とともに商品や資本の輸出が拡大し、企業進出が進んだ。さらに満州事変により満州全域、日中戦争以降は中国全土・香港へと占領地が広がり、満州移民など移住者も増加した。
【2009年度】 当時、鉱工業の労働力が停滞的で、過剰な労働力が農林水産業に滞留したうえ、昭和恐慌で生じた失業者が帰村し、農村人口は過剰であった。さらに、豊作飢饉や対米生糸輸出の激減により米価と繭価が暴落し、米作と養蚕を軸とする農村経済は打撃を受けた。そのため、農家の困窮は深刻で、子女の身売りや欠食児童が増加した。(下線略)
駿台予備学校日本史科講師 塚原哲也
センター試験対策、日本史論述対策講座など多くの講座を持つカリスマ講師。丁寧な解答例・解説を書いた『東大の日本史25カ年』(教学社)が日本史を選択した学生のバイブル。『大学入試 マンガで日本史が面白いほどわかる本』(中経出版)など著書のほか、ウェブサイト「つかはらの日本史工房」を主宰。
(キッチンミノル=撮影)
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