天啓と受けとめた
ミャンマーからの電話

2カ月に1度、現地を訪ねる。
ミャンマーの農業を再生する覚悟がある。

松浦良紀●まつうら・よしのり
万田発酵株式会社 代表取締役社長
社長就任を「第二の創業」と位置づけ、企業改革を敢行。経営の効率化、販売拠点の統合、通信販売などの施策が実り、事業を再生。以後10年でⅤ字回復を果たす。2013年より、ミャンマー稲作支援プロジェクトを開始する。

きっかけは2013年2月4日にかかってきた1本の国際電話だった。

電話は、取引先とミャンマーを訪問していた松浦新吾郎会長から。ミャンマーの副大統領より直接、農業発展のために万田発酵に技術支援を仰ぎたいと依頼を受けたというのだ。

驚かされるのは、それを受けた松浦良紀社長の返答だ。「わかりました。やりましょう」即決だった。躊躇ない行動に駆り立てたのは何だったのか。

「節分の翌日のお声掛かり。会長も私も節分を一つの節目とする古風な思いを持ち、翌4日は新たな年の始まりと考えていました。その矢先の一報だったので、何かの縁と受けとめ、プロジェクト推進を即決したのです」

今でこそミャンマーはアジア最後のフロンティアと呼ばれる。

「当時は日本企業主導の工業団地開発などのプロジェクトはなく、日本の商社が現地調査に赴く程度、日本企業進出の気配すらありませんでした」

会長からはミャンマーは国民の7割が農業に従事している農業国、にもかかわらず生産性が低いため、農民の多くが貧困にあえいでいるという現状を聞いた。同社の「万田31号」をはじめとする植物用万田酵素は植物の生育を促し、品質、食味なども向上させ、日本でも稲作支援に実績がある。当然、同社の製品や技術ノウハウは、ミャンマーの農業振興に貢献できる。

万田発酵の主要事業は4つの分野から成る。植物発酵食品「万田酵素」を主力商品とする健康食品事業。「万田酵素」に含まれる保湿成分を生かしたスキンケア事業。食品やスキンケア商品に植物発酵技術を用いる植物発酵エキス事業。そしてミャンマーの稲作支援プロジェトを推進する植物、水産物、畜産物の生成に有効な「植物用万田酵素」を擁するアグリバイオ事業である。

利潤の追求だけでない
企業の真価を考える

万田発酵は現会長が「万田酵素」を発明し、創業。1990年代に急成長を遂げた。だが2000年には成長に陰りが見え始めた。過剰な設備投資、手間を要する商品開発が弱点だった。

2004年、経営危機の中、35歳で社長に就任。マイナスからの出発だった。銀行の融資だけでは足らず、資金繰りに追われた。明日までに億単位の資金調達が求められることもあった。

「そうした中、取引先をはじめとする多くの方々の支援で経営危機を乗りこえ、再建することができました」

その後松浦社長は効率化を図り、販売拠点を統合。通信販売に力を注ぎ、以後10年で業績はⅤ字回復を果たす。

一方で社長就任を期に「第二の創業」と位置づけ、「人と地球の健康に貢献する」という新たな企業理念(Manda Credo)を掲げた。

「再生を遂げた時、企業には利潤の追求の他に、社会的責任があると思うようになりました。事業特性を生かした社会貢献にも企業の真価があり、その実行が、支援してくれた方々への恩返しになるのでは」と。ミャンマープロジェクトはまさに企業理念とそうした思いに合致した第二の創業、10年目、節目の事業だったのである。