巨大な被害を生む新興感染症が台頭

一方、60年代以降、世界は新興感染症の脅威にさらされるようになる。新興感染症としてまず思い浮かぶのは、冒頭にも紹介したエボラ出血熱だ。エボラ出血熱は、76年に当時のスーダンとザイールで初めて発見された。発症すると39度を超える高熱が出て、嘔吐や下痢をする。空気感染はしないが、体液や血液から感染するため、衛生状態の悪い地域で感染が拡大する。最初の流行以降、数年おきに流行が起きていたが、今回ほど感染が拡大したのは初めてだ。

いまも感染者が増え続けているという意味では、エイズも脅威だ。エイズ患者が初めて確認されたのは81年。日本でも85年にエイズ患者が確認された。当初はエイズに対する恐怖と誤解からパニックが起き、感染者が差別的な扱いを受けた。現在は治療薬が進歩して、早期に発見して治療すれば死ぬ病気ではなくなった。しかし、日本でも感染者は増えていて、毎年約1500人の新規感染者が生まれている。

社会的なインパクトという点では、775人の死者を出した03年のSARS(重症急性呼吸器症候群)も忘れてはいけない。発生は中国の広東省。当初は中国政府が公表しなかったため、国際的な対応が遅れ、遠く離れたカナダやシンガポールでも多数の感染者が出た。WHOが渡航制限を勧告したのは、このときが初めてだ。