毎日を遊ぶように暮らす。守村さんの「原人生活」は、その挑戦だった。入植して9年。衣食住は豊かになるばかり。カネでは買えないリッチな暮らしぶりとは。

おぉ。ツリーハウスのウッドデッキに立つと、思わず声が漏れた。高さ4メートルほどか。眼下には、母屋とガレージ、鶏舎などのほかに、4つのログハウスが並ぶ。整地された敷地の周りに森が延々と広がる。喧しいほどに響くセミや野鳥の声が、町からの距離を感じさせる。けれど、実際は東北新幹線が止まる福島県の新白河駅からたった10分ほどの山村である。

9年前から自ら雑木林を切り開き、ログハウスを建て、日々食べる野菜やニワトリを育てる自給自足の生活を送る“新白河原人”こと、マンガ家の守村大さんはさらりといった。

「いまの生活は金もないけど、ストレスもほとんどないよ」

守村 大さん

現在の収入は週刊マンガ誌「モーニング」の連載「新白河原人」の原稿料だけだ。毎週2ページで月収は約10万円。一方、毎月の支出は守村さんと奥さん、そして2匹のイヌの食費が約2万円。さらに固定資産税が1万9000円、水道代と電気代、ガソリン代などを引くと余裕はない。アクセスのよさが決め手となった。広さは1万2000坪、東京ドーム1個分弱で価格は600万円。坪単価は、かつて都内に購入した土地の1800分の1の約500円だった。

守村さんは、バイクを90万円の中古ユンボとチェーンソーに代えて、木々の伐採と開墾に着手した。こうして「25年間、机の上で妄想ばかり書いてきた」というマンガ家は“原人生活”の第一歩を踏み出したのである。

「無知だからできた。当時、オレが知っていたのは丸太の組み方だけだったから。開墾がどれだけ大変か知っていたら、やらなかったかもしれないね」

開墾した土地を整地すると念願のログハウスづくりに取りかかった。それから次々と建てていく。北欧式サウナ、奥さんの趣味である機織りの作業場、廃材でつくったトイレ、高床式のツリーハウス。ちなみに1棟の材料費は10万円から30万円ほど。次は丸太で味噌蔵をつくるのだという。