20分程度のスピーチなら事前に一字一句暗記しておく

1999年アメリカのRJRインターナショナル、2007年イギリスのギャラハー買収などを経て、今や当社は、世界約80カ国に事業所や工場があるグローバル企業となりました。文化や歴史が日本人と異なる海外の社員には、阿吽の呼吸や「俺の目を見ろ。何も言うな」は通用しません。国際舞台でのコミュニケーションには、日本以上に気を使っています。

特に海外で気をつけているのがアイコンタクトの重要性です。相手が日本人であれば、自分の話のこの部分でこんな反応があるだろうと、ある程度想像できる。ところが海外では、思わぬところで目が輝いたかと思えば、こちらが強調したい個所に全く反応がない場合もあるというように聞き手の反応が予想できません。

実は、彼らの顔色や目つきの変化にこそ貴重な情報が含まれているのです。それなのに原稿に目を落としたままで聴く側の表情を見ていなければ、それらをキャッチし損ねてしまいます。そうならないよう、海外で話をする際には、20分程度のスピーチなら事前に一字一句暗記しておくのが常です。

さらに、工場であれば工場長以下30人くらいの名前、顔、履歴、大まかな仕事内容は、すべて覚えておくようにしています。そうでないと、彼らからいきなり質問をされても、その主旨や本質がとっさに把握できません。日本の場合と違って、海外の現場を訪れる機会はそう多くはないので事前にできる限り多くの情報をえたうえで、こちらの意図が正確に伝えられなければ、飛行機代や宿泊費が無駄になってしまいかねない。

私にとって、徹底的にスピーチの準備をして臨むのは当たり前のことなのです。

JT社長 小泉光臣
1957年、神奈川県生まれ。県立平塚江南高校卒。81年東京大学経済学部卒業後、日本専売公社(現JT)入社。2001年経営企画部長、03年執行役員、06年常務執行役員、07年取締役兼常務執行役員、09年代表取締役副社長兼執行役員副社長などを経て、12年6月から現職。「株主至上主義的経営は、JTの経営と一線を画します」。
(山口雅之=構成 大沢尚芳=撮影)
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