大手4社も無視できない存在感

また、この数年でクラフトビールを前面に打ち出した飲食店も数多く誕生しています。それらの店では、「タップ」と呼ばれる樽生ビールの注ぎ口がカウンターにずらりと並んでいます。大手メーカーのビールは、「自社の営業マンすら味の違いがわからない」と揶揄されることがあるほど、商品の味覚的な差異は決して大きいとは言えません。もちろん、日本全国で広く飲まれることを目指すならば、同じようなテイストに収斂されるのももっともかもしれません。それに対して、クラフトビールの多くは味や香り、そして液体の色もまちまちで、クラフトビールを提供する飲食店では、お客が楽しそうにそれらの違いを味わっている様子を見ることができます。

SPRING VALLEY BREWERY

そんなクラフトビールをテーマにした飲食店の中で注目すべきは「ブルーパブ」の存在です。ブルーと言っても青の「BLUE」ではなく、醸造を意味する「BREW」のことです。すなわちブルーパブとは、店内でビールを自家醸造するタイプの飲食店のことを指しています。

食の世界では「産地直送」や「出来たて」、あるいは「農園レストラン」など、生産と消費を物理的・時間的に近づける動きがあちこちで起きています。ブルーパブはまさにその一環と言えますが、そこには「その場でつくられた出来たてのビールが飲める」という極めてわかりやすい価値があるのです。面積の限られた店舗内にビール醸造設備を置くのは店側にとっては大きな負担ではありますが、それによって希少性も演出できるわけです。

このように世間でクラフトビールへの注目が高まっていく中、大手メーカーもその動きに対応せざるを得なくなりました。現在、アサヒビールは「クラフトマンシップ」、サッポロビールは「クラフトラベル」、サントリーは「クラフトセレクト」と、それぞれ「クラフト」という言葉を掲げたブランドを発売しています。

そして大手の中でもっともクラフトビールに力を注いでいるのはキリンビールです。自社で「スプリング・バレー・ブルワリー」というブルーパブを東京・代官山と横浜にて展開しています。さらには、クラフトビール界の雄、ヤッホーブルーイング(代表ブランドは「よなよなエール」)と資本業務提携をしたことでも、その本気度が伝わってきます。