がん細胞は痛みや苦痛を引き起こさない

多くの人が誤解していることですが、がん細胞そのものに痛みや苦痛を引き起こす性質はありません。もしがんの治療中、日常生活に支障があるとすれば、その多くはがん細胞やその塊がつくり出すというよりも、がんの治療によって引き起こされることのほうが多いといえます。

つまり一般的ながんのイメージのように、痛みに苦しみ、痩せて、生気を失う状態は、がんがかなり進行して治療ができない状況やそれに近いときのことです。がん細胞が初めて身体の中で発生してからの時間の経過を考えれば、それは本当に最後の最後の一時期でしかありません。したがって、これから治療を行う人や行っている最中の人にとっては、その状態を想像することは、いたずらに不安をあおるだけで、まったく意味のないことなのです。

このように正しい知識があれば、がんを必要以上に恐れることはありません。しかし医療関係者でない一般の人が、がんについて正しい知識を得るのはなかなか難しいことです。 患者さんの中には、自分ががんという病気である事実を受け止めようとして、いろいろ調べてみる人がいます。しかし今の世の中は情報が多すぎるため、多くの場合、かえって混乱することが多いようです。患者さんの体験談を参考にする人もいますが、状況が異なる人の治療内容を鵜呑みにすることは危険な場合すらあります。

自分で調べてもよくわからないから、診察してもらっている先生に詳しく聞いてみても、患者側が期待するほどの答えをもらえることは、まずありません。なぜなら医師は非常に忙しく、がん患者は大勢いるからです。

主治医は必要最低限のことしか答えてくれず、結局よくわからないまま、治療が始まっていきます。そうして決して患者さんの疑問や不安が解消されたわけではなく、ただ医師の用意した道を突き進むだけのことがほとんどです。

この不安は、知らない夜道を歩くときの気持ちに似ているかもしれません。同じ道でも、明るい日中であればさほど怖くないものです。ディズニーランドに「スペースマウンテン」という暗闇の中を進むジェットコースターがありますが、あれがもし明るい屋外であれば、それほどスリルを味わうことはないはずです。

つまり「知ること」には恐怖をやわらげる効果があるのです。のちほど詳しく説明しますが、精神的に落ち込み、将来を悲観することは身体の免疫を低下させてしまいます。

したがってがんを告知されたら、まずしなければいけないのは、がんは怖いという表面的なイメージにとらわれるのではなく、がんという病気の実態を知ることです。がんという病気の内容や行く末を本当に理解することで、今後の対策を立てることができるのです。

※本連載は書籍『がんを告知されたら読む本』(谷川啓司著)からの抜粋です。

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