大阪支社で挑んだ新商品の絞り込み

2009年2月、支社長を務める大阪支社で、連日のように「合宿」を重ねた。管内の支店単位で営業担当者を集め、2日間ずつ、販促活動を「新・一番搾り生ビール」に絞り込む方針を説明し、反論や質問に丁寧に答えていく。集中討議により、全員が共通の意識に到達するよう、力を尽くす。

キリンビール社長 布施孝之

中核商品の「一番搾り」が3月に発売20年目に入るのを機に、味覚やデザインを一新した「新・一番搾り」に代わる。独自の製法による「渋みを抑えたまろやかな味」に加え、「麦芽100%」で旨みを増す。8年前に奪われたビールの国内シェア首位の座を奪回する切り札に、期待された。

ただ、この新商品に販促活動を絞り込むのは、数字的な成果を出すためだけではない。もう1つ、大きな意味を込めていた。職場には、何でも会社や他人のせいにする「他責」の風潮が漂っていた。それを一掃し、思いを1つに束ねるには、核となるものがほしい。

前年春に着任すると、内勤の女性も含めた全員との個別面談から始めた。聞くと、「やらされ感がきつく、やってられない」「会社の方針が間違っている」と、不満が続く。ベテランには「あんた、何しにきたんか。東京もんに、大阪は無理や」とまで言われた。

組織の士気がそうとう落ちている、と感じた。でも、その場では反論せず、聞くだけにする。なぜ「他責」になるのか、しばらく観察した。その間、営業担当者に同行して本音を聞くなど、いろいろとやってみたが、結果が出ない。そこで、全員を集めて訴えた。

「今年の結果は、私のミスリードによるもので、支社長の自分が悪い。ただ、来年は勝ちたい。支社でシェアを上げ、売り上げ増加率で全国トップになりたい。勝って、全員に喜んでもらいたい」

みんな、驚いた。「そんなに謝る支社長など初めてだ」と言う。では何をすればいいのかとなり、取引先への訪問回数などいくつかあった販促活動の指標が、俎上に載る。指標が高くても、競争会社に負けていた。あちこちで、数字の操作もあった。その見直しを議論していたなかで、「新・一番搾り」の発売を知る。