ウケ狙いのケータイ料金値下げか

我々庶民の家計負担を軽くするのであれば、ケータイ料金を引下げだけでは全然足りない。消費支出に占める割合で見ると、我々が毎日支出している「庶民の義務的経費」には、通信費以外にも電気代やガス代、水道代などがある。通信費よりも伸びの著しいものもある。

例えば、2014年の家計収支の状況(総世帯のうち勤労者世帯)で見ると、通信費は消費支出のほんの一部に過ぎないことがすぐわかる。数ある消費支出項目のうち、国や自治体による規制・制度改革で介入できるものと言えば、消費税を除いたとしても、「光熱・水道」、「保健・医療」、「交通・通信」のうちケータイ料金を除いたもの、「教育」が先ず挙げられる。

また、こうしたのうち公共料金について、ここ10年程度の推移を見ると、通信費よりも大きな伸びを示しているものばかりだ〔資料2〕。

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[資料2]消費者物価指数における公共料金の推移

ここで注意しておくべきことを1つ。これらの数値は、統計の母集団や手法によって変わり得るということだ。経財諮問会議資料〔資料1〕では、通信費は上昇基調にあることが示されている一方で、消費者委員会資料〔資料2〕では、通信費は下降基調にあることが示されている。

政府の提示する資料や数値は、その時々の政策目的で変わる場合がある。ケータイ料金の値下げをしようとしている時に、通信費が下降基調にあることをわざわざ示す資料を出す間抜けな担当課長は役所にはいない。

因みに、今国会で成立した電力・ガス自由化関連法では、自由化のための規制変更をしたいがために電気料金やガス料金は高い、というような趣旨で政府は喧伝した。事実そうなのだが、それは電力・ガス規制によるものではなく、原子力発電停止やそれに伴う海外からの資源調達コストの高止まりが主因。これにまつわる話は、別の機会に寄稿する。

要するに、ケータイ料金値下げに向けた規制・制度改革は喜ばしいことではあるが、これだけで庶民の懐を温めようとしても「政策の費用対効果」は低いということ。公共料金や保険料といった「庶民の義務的経費」を全体として引き下げていかないと、国民全体の懐はそう簡単に温まらず、消費活性化による景気回復・デフレ脱却は画餅に終わるだろう。

ところで、ひょっとすると政府は、ケータイ料金値下げなどという小さな話に終わらせる気はなく、これをきっかけとして通信分野の更なる自由化を企図しているのかもしれない。そうだとするならば、全体的な通信分野の改革構想も提起すべきだ。

ケータイ市場は、競争原理が働きにくいと言われる。その理由は、総務省がケータイ会社への電波帯の割当てを差配しているからだとしばしば指摘される。諸外国では、政府の審査ではなくオークションによって周波数を割り当てる方式が殆ど。オークションにすることで、政府の恣意性を排除した透明な割当てを実現できる上、落札額は国庫に納められる。国民共有の財産である電波を国民のために活用するという観点からも、オークションが妥当であると言われる。

前民主党政権では、オークションの実施を閣議決定し、関連法案を国会に提出したが、自民党の反対などもあって廃案となった。今回、自民党政権が逆にこれに手を付けようとすれば、民主党の出鼻をまた挫くことにもなる。安全保障関連法を巡って支持率が低空飛行になる可能性を考慮すれば、自民党政権としては、民主党が推進しようとした世間受けの良さそうな政策を“活用”することは十分に考えられることだ。

単なるケータイ料金値下げでは、今や超大企業であるdocomoとauとSoftBankをブン殴るだけの庶民喝采・大衆ウケ狙いだといずれ見透かされてしまう。いや、既に見透かされている!?

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