誰にでも、尊敬する人や、会いたい人はいるだろう。しかし、もし、その人と話す機会を得たとき、果たして、印象に残る人間になれるだろうか。数々の機会を、モノにしてきた名物編集者がいる。シングルモルトで埋め尽くされた、その人の事務所で、葉巻の煙に包まれながら、雑談の極意を聞いた。

雑談談や喋り倒しうんぬんの前にさ、大切なことがあるんじゃないかな。会った瞬間にね、あなたが持っている最高の笑顔を相手に捧げることだよ。

笑顔は相手の心を開かせるマスターキー。こぼれるような笑顔で「はじめまして」って言ったら、きっと相手も打ち解けてくれるよ。それに相手に対する、尊敬の念をもった真剣な眼差しが重要。年上だろうが年下だろうが、関係ない。相手だってあなたの眼を見れば本気かどうかなんて、わかるんだから。その気持ちがあってからでしょ? 雑談だろうが、喋り倒しだろうが。

島地勝彦氏

雑談ってさ、部屋の雰囲気とか相手次第で生まれては消える……、そうだな、パイプの煙みたいなものだよ。どうせ消えてしまうんだから、自分をさらけ出さないと。自分だけ鎧をかぶっていたら相手もオープンマインドになんてならないよ。失敗談でも何でも話さないと。

だから、いろんな内容のものが交ざっていていいんだよ。何を話そうなんて考えなくても、瞬間芸みたいに出てくるもの。簡単に出てこない? それなら日頃から本を読み、感性と知性を磨いておくんだね。

ハウツー本じゃだめだよ。歴史的な本を読まないと。わたしもいろんな先生から本を教わった。柴田錬三郎先生からは『モンテクリスト伯』、今東光大僧正には『十八史略』の面白さを、開高健先生にはアンリ・トロワイヤの『大帝ピョートル』の痛快さを教わった。『言海』という立派な国語辞典もお勧めかな。

それと、雑談が上手くなりたいなら家に閉じ籠もってばかりいないで、とにかくバーでも何でも行っていろんな人と話をするんだよ。わたしはよく言うんだよ、もっと「じか当たりしろ」って。わたしだっていろんな人と会って、たくさんの人と雑談してきたよ。