キリンビール代表取締役新社長 松沢幸一(まつざわ・こういち)
1948年、群馬県生まれ。73年北海道大学農学部修士課程修了後、キリンビール入社。キリンヨーロッパ社社長、常務執行役員生産本部生産統轄部長などを経て、3月26日就任予定。かつて所属したサッカーチームのポジションはフォワード。


 

「この3年間、僅差で負けている。だが、プレーヤー個々の力、チームのコミュニケーション力、そして監督である私の情勢判断力がかみ合えば、逆転は可能」

沈着冷静な中にも、強気な人柄が滲み出る。キリンビールにとっては、珍しい生産部門出身のトップ誕生だ。

キリンはアサヒビールに2001年、ビール飲料市場“首位の座”を明け渡した。以来、2位が定位置になりつつあるが、「甘んじていたら、個人も組織も成長できない」と語気を強める。

入社は1973年。研修を受けずにいきなり工場の検査部門に配属される。当時は、少なかった大学院出を"“一人前”と見なしていたからだ。仕事はわからず、会議中はいつも居眠りばかり。

ある会議では居眠りで船を漕ぎ始めたが、椅子の重心が悪く、そのまま後方へと倒れていく……、次の瞬間、つま先がテーブルに引っ掛かる。後頭部から転倒する悲劇は免れたものの、テーブルはひっくり返り、灰皿や湯飲みが勢いよく飛び散ってしまい、会議室には冷たい空気が残った。「もう会社を辞めよう。つまらない」と思った。

最近、新入社員時の人事考課は45点だったことを知った。前途ある新人は、通常80点以上をつけられる。そのため、考課をつけた上司に対してさらに上の上司が「こんな点数を社員につけちゃダメだ」と戒めたそうだ。

活路が開けたのは2年目。ある廃水処理の研究会に参画してからだ。「技術で会社に貢献できるとわかり、やり甲斐を見いだせた。仮に辞めていたら、ろくな人間にならなかったはず」。

その後、尊敬できる上司に出会い、ドイツに留学し、還暦で社長に。「グループシナジーを高めるため、M&Aした各社との人事交流を進め、同じく人事システムも変えていかなければ」。