今でも餃子とラーメンの日々

ある会合の後、私を含む数人が稲盛和夫さんに、京都・先斗町の酒場へ連れていっていただいたときのことです。

「さあ飲めや」と言われてカウンターに座ったら、目の前の焼酎の瓶が目に入りました。入手が難しいことで知られた、ちょっと値の張る銘柄です。

友達と飲むような乗りで、私が「珍しいのがあるな。せっかくだから、これ飲ませてください」と言った途端、女将が「はい、はい」と栓を抜いて、ジャージャー注ぎ出しました。

そこで稲盛さんのお顔を何気なく見たら、何とも間の悪そうな表情。私は「しまったあ……」と思いました。

稲盛さんは、ご自分のためには決して贅沢をしない人です。飲み方ひとつにしても贅沢さを感じたことは昔からまったくありません。そもそも稲盛さんが先斗町で飲むこと自体が稀。それを承知していながら、私は目の前にある名品をつい注文してしまった。普段の生活態度を反省させられました。もう7、8年も前のことですが、あのときの気持ちは今でも残っています。

ワタベウェディング相談役 渡部隆夫氏

稲盛さんに人生哲学・経営哲学を学ぶ「盛和塾」には、今や9000名近い塾生が集っていますが、稲盛さんに「教えを乞う勉強会をつくりたい」と私が最初にお願いしたのは約30年前。

稲盛さんを、行きつけの飲み屋で待ち伏せてのことでした。

そこは、安い会費で誰でも利用でき、お酒の持ち込みも可で、必要なのは氷代など実費だけというシステムの店。稲盛さんが飲んでいたのも格別に高級なものではなく、ダルマ(サントリーオールド)程度のものでした。

実は、その店は稲盛さんとワコールの塚本幸一さん(創業者、故人)とで立ち上げたものでした。祇園や先斗町で飲めば高くつくというので、気楽にちょっと飲める場をみずからつくり、自社の社員をはじめ誰でも利用できるようにしていたのです。無駄を排した、合理的な考えによるものだと思います。

食べるものにしても、町のラーメン屋にふらっと立ち寄るのが稲盛流です。京都の国際会議場やホテルで大きな会議やイベントがあった後も、高級なレストランなどではなく、帰宅される途中で餃子とラーメン。運転手さんと2人で食事されるといった生活ぶりです。