訪問美容の普及には、サービスの受け手も美容師にとってもWIN-WINな仕組みが不可欠

「訪問美容」の普及は、高齢者の生きがいにもつながる可能性を秘めている。柏村氏がこの取り組みに力を入れる遠因は、彼女自身の大学時代の体験にある。

「もともと私はソーシャルワーカーを目指しており、大学時代は障がい者支援をしていました。その際、筋ジストロフィーを患った方に3年間関わっていたのですが、当時ブームだったカリスマ美容師に髪を切ってもらいたいと言われたんです。それが実現し、髪を切ってもらうと、その人は今まで見たことのない素敵な笑顔を見せてくれました。美容師に髪を切ってもらうことにはそういった力があると思うんです」

高齢化が進むこれからの時代において、在宅介護を受けるお年寄りの“生きがい”を作ることは重要になる。訪問美容は、その一端になるかもしれない。そして、サービスを提供する美容業界にとっても、美容師の働き方の多様性にもつながるだろう。

そんな中、訪問美容を普及・活性化させる最大のカギは何だろうか。柏村氏は、「訪問美容を継続的に運用していける強固な仕組みをつくること」だという。

「訪問美容がお年寄りのニーズと合致し、女性の休眠美容師が働ける場を増やすとしても、それが両者にとってメリットをもたらす産業にならなければ、どうしても普及しません。訪問美容への補助金を出してくれる自治体もありますが、これを頼りにするのではなく、美容師にとってもサービスの受け手にとっても、無理なく継続していける仕組みを作ること。仕組みによって誰もが便利に利用できるサービスにすることが大切です」

それは、ホットペッパービューティーといったサービスを始め、利用者にも、美容業界にも精通しているリクルートだから発信できることでもある。

柏村氏は、「訪問美容は、実際の美容室と同じく、サービスの受け手のニーズに徹底して答えるサービスにすることが重要だ。ヘアサロンと同じように、ハイクラスなものからリーズナブルなものまで、いろいろな形の訪問美容が生まれればいい」と考えている。その状態こそ、訪問美容が産業として活性化した姿なのかもしれない。

女性の休眠美容師が復帰しやすくなり、在宅介護を受けるお年寄りは“美容”という生きがいを受けやすくなる。その手段として、訪問美容は普及していくのか。課題は多いが、実現した時には大きなメリットがあるはずだ。

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