第91回箱根駅伝を圧倒的な強さで制した青山学院大学。元伝説の営業マン監督はどのようにして選手を成長させているのか。組織マネジメントを専門とする経営学者が聞いた。

なぜ「男前」の選手のほうが伸びるのか

【早稲田大学ビジネススクール准教授 竹内規彦】今年の箱根駅伝で青山学院大学が優勝したとき、選手たちの表情が印象に残っています。なぜ彼らは事前予想を覆して優勝できたのでしょうか。原監督はテレビ番組で、「選手をスカウトするときは身体的能力とともに表現力を見る」とおっしゃっていましたが、本当ですか?

【青山学院大学陸上競技部監督 原 晋】私は男前をとるんです。男前と言ってもジャニーズ系ではなく(笑)、表現力が豊かな子です。

【竹内】具体的にはどんな表現力ですか。

青山学院大学陸上競技部監督 原 晋(はら・すすむ)
1967年、広島県生まれ。広島県立世羅高校卒業。中京大学3年時に日本インカレ5000mで3位入賞。大学卒業後、中国電力に入社。選手、営業マンを経て2004年より現職。現在は学生と共に町田市内にある寮で生活を送る。

【原】たとえば好きな女性がいるときに、いきなり「好きです」とは言わない。「ファッションセンスがいいですね」とか「髪の毛がきれいですね」とその人の長所を褒めるでしょう。それは相手をよく観察していないとできません。

陸上選手も同じなんです。表現力のある選手はチームメートをよく見て、相手のよさを言葉にすることができる。そういう選手は自分に対しても観察できて、「どうすればもっと速く走れるか」「どうケアすれば故障しないか」と考えることができます。

【竹内】スカウトのときはどのように選手の表現力を観察していますか。

【原】面接をして「君はうちの陸上部にどのような気持ちで入りたいの?」と尋ねたり、「箱根駅伝について思っていることを聞かせてくれる?」「君のいいところをちょっと自慢してください」と質問したりしています。

【竹内】その質問から選手は監督が何を知ろうとしていて、何を考えているのかを推測し、どの言葉で伝えるのが効果的かを考える。そういうコミュニケーション能力を見ていく。

【原】そうです。お互いにコミュニケーションをとるというところが大事で、一方的に私が「うちの部なら優勝できるから、ぜひ来なさい」とは言いません。お互いがどういう人間かを知り、納得して入部しないと結局は伸び悩むんです。

これは企業の採用でも同じだと思います。面接担当者が「うちはいい会社だから」と言って無理強いして入社させても、すぐに辞めてしまうのではないでしょうか。