協議決裂、最悪のシナリオとは

【塩田】政府は、普天間基地撤去には辺野古移設が唯一の解決方法と言い続けています。

【下地】政府が最終的に何を望んでいるかというと、日本が沖縄の基地問題でざわめいて、日米安保体制が混乱しているとか、日米関係の構造が悪くなっているとか、安全保障の枠組みについて近隣諸国に悪いメッセージを与えるといったことにならなければいいんです。辺野古エリアに基地がなければ、在沖の米軍基地、あるいは在沖の海兵隊が成立しないという発想に政府が立つのかどうか。その点も議論していけばいいと思うんです。

「唯一の解決方法」と言いますが、何をもって「唯一」と言うのか。一方で、普天間基地は世界一危険というけど、その基準は何か。普天間基地は飛行回数が2万9000回ですが、那覇空港の14万回のうち、30%が軍用機で、4万回を超えています。軍用機だから危ないということはないでしょう。というふうに、「危険」と「唯一」という二つの言葉には整合性がない。二つの根拠は成立していないのに、政府は成立しているかのようにずっと言い切っていますが、正しい選択肢かどうか。私は翁長さんの基地に対する考え方と政府の主張の整合性を合わせる会議にすべきではないかと思っています。

【塩田】1カ月の中断で、協議は9月上旬までですが、見通しはいかがですか。

【下地】最悪のシナリオは、協議が決裂して、翁長知事が辺野古の埋め立てを取り消し、裁判に持ち込んで法廷闘争となるケースです。最高裁まで行って、判決がどうなるかを見て、それからということになります。この裁判は、沖縄県が簡単に勝てるものではなく、結果的に国が勝つ可能性が高い。しかし、国は政治的に勝てるのかというと、そうはいきません。安全保障は法律で決めるものではなく、民意が決めるものですから。

決裂したら、翁長知事は今年11月に知事選を実施してもう一回、打って出る。同時に、ギリシャやアイルランドのように、県民投票をやるでしょう。結果は見えています。翁長さんは去年11月の知事選のときよりも強くなっているから、対抗できる人は出てこないし、県民投票も「辺野古に賛成か反対か」のワンイシューでやりますから、国は勝てない。

それでは、翁長知事が再選され、県民投票が終わった後、政府は反対派排除のために機動隊を入れ、押し切ってやれるかどうか。自由国家のアメリカで、それで抑止力なのか、安全保障なのかという声が上がる。沖縄では、嘉手納基地もやめろ、海兵隊は出ていけという論理になる。それでも政府は機動隊を入れて基地建設をやりますかと言ったら、それはできないと思います。

ということは、両者ともわかっていると思うから、私は今度の協議に期待しています。翁長知事も、自分の考え方と降りやすい部分を提示できるところまできているのではないか。政府も、新たな提案が一個もないというようなものではないと思っています。

(このインタビューは2015年の8月7日と20日に行いました)

下地幹郎(しもじ・みきお)
衆議院議員・維新の党・元国民新党幹事長・元内閣特命相
1961年8月、沖縄県平良市(現宮古島市)生まれ(現在、54歳)。父・下地米一は元平良市長。沖縄県立宮古高校を経て、中央学院大学商学部商学科卒。父が創業した大米建設に勤務した後、1996年総選挙に沖縄1区から自民党公認で出馬し、比例九州ブロックで初当選(以後、当選5回)。自民党では小渕派に所属した。2003年総選挙で落選した後、自民党を離党。05年総選挙に沖縄1区から無所属(民主党推薦)で出て返り咲いた。地域政党「そうぞう」を結成して代表に就任するが、08年に国民新党に入党。10年に幹事長となる。12年10月に野田佳彦内閣の内閣府特命担当相に。だが、12月の総選挙で落選し、13年に国民新党を離党した。14年11月の沖縄県知事選挙に出馬して落選。14年総選挙に維新の党公認で出馬して復活を遂げた。著書は『サトウキビ畑からきた大臣―郵政と沖縄をめぐる連立政権三年三ヵ月』『解決―沖縄ミッション 米軍基地過重負担の漸進的軽減』など。
(尾崎三朗=撮影)
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