絶体絶命のピンチをどう脱するか

しかし、すでに義務化されてしまっているから、社外取締役など無用! と言っても始まらない。だからこそ、私は、日本企業に合う、欧米の株主優先主義とは全く違う形の社外取締役のあり方を提案してみたい。

いまのところ、社外取締役に多いのは、官僚OBや大学教授、弁護士などだが、経歴がどんなに立派でも、企業のプラスになるものを何か持っているのかというと甚だ疑問だ。大企業の社外取締役の報酬は、年間約1000万円だそうだ。実質的に年数十時間の労働で、給料分の働きをするには、並大抵の実力ではダメだ。

冒頭の案件ではないが、ビジネスマンが特に苦手とするのが危機管理だ。大企業が社外取締役に欲しい人材として、警察や検察のOBなどが挙がるのは、大きな声では言えないが「何かあったらお願いします」という下心があるからだろう。しかし、報道されて企業のイメージに傷がつく前になんとかしてほしい場合、法律の専門家よりも、実社会での経験がものを言う。通常の社外取締役は、「悪いことをしてはダメだ」の一点張りで、具体的にどうトラブルを処理するかまで知っている人はいないだろう。同じことをしているのに、捕まる企業、謝っただけで済む企業、悪いことをしているはずなのに問題にもならない企業と分かれてしまうのには、当然、ウラがある。

大阪・道頓堀に派手な店構えが有名な飲食店が、頭を悩ませていた大問題があった。報道されてはいないが、プレジデントの読者にだけ秘密を明かそうと思う。

飲食店のオーナーが、保健所と消防署から「定員を超す人数の客席がある」として、摘発されかけたことがあったのだ。

法令を超えた運用をする「飲食店の長イス」 法令には、長イス50cmにつき1人の定員と定められているが、実態上の運営の中で、ゆったりした間隔でのカウントでも認められる場合がある。※写真はイメージです。本文とは関係ありません。(写真=時事通信フォト)

結果から言えば、店は「長イス」を上手く活用して、再調査を乗り切ることができた。客として出入りするだけでは気づかないかもしれないが、飲食店は食品衛生法や消防法によって、厨房と客席の区画を分けるように定められているほか、フロアの広さから算出される定員以上にイスを並べてはいけない。どんな経営者でもフロアを広くして、イスを多く並べたいと考えるはずだが、危険なのでそれは禁止されているのだ。しかし、当局が事実上黙認している商習慣として、長イスを並べるという方法がある。4人座れる長イスでも、消防署や保健所が調査に来たら「定員は2人です」と答えるというもの。知っている人だけが知っている法の抜け道だ。

本当の社外取締役なら、これぐらいのアドバイスができなくてはいけないのではないだろうか。

(写真=時事通信フォト)
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