「まだまだひとり暮らしがいい」

▼家族構成
金山裕介さん(仮名・63歳):自由業/2人兄弟の次男 埼玉県在住
妻(60歳):専業主婦/1人娘

父は、30年前に結核で他界。現在、母(87歳)が、群馬県でひとり暮らしています。母はいわゆる家付き娘で、嫁に出たこともなく、今暮らしている実家が、一生を共に過ごしてきた愛着の深い場所です。地元は織物や繊維業が盛んだったところで、母も長年、縫製業に従事してきました。父が亡くなった後も、それで生計を立ててきた気丈な母です。

そんな母ですが、3年前に「大腿骨頸部骨折」で手術・入院をしました。転倒などではなく、前日に歩きにくいと連絡があり、翌日、車で実家に向かって、整形外科に連れて行ったのです。すぐに手術ということになって、いったん自宅に戻り、また病院にトンボ返り。私の自宅と実家は、だいたい車で1時間半くらいの距離にあります。

手術は4時間もかかりました。病院でリハビリを続けていましたが、病院から2カ月で退院を迫られ、そのまま自宅に戻りました。

『50代からのお金のはなし』(黒田尚子著・プレジデント社)

実はそのとき、母には「同居しよう」と申し出たのです。でもあっさり断られましたね(苦笑)。「イヤだ。まだまだひとり暮らしがいい」って言うんです。とにかく、地域とのつながりが濃密なんです。母の生まれ育った土地ですし、友人や知人もたくさんいる。近くには、母の従弟夫婦も住んでいて、お世話になることも多い。2週間に1回くらいは顔を出してくれているんじゃないでしょうか。

ご近所がしょっちゅう訪れるような家で、裏のお宅の方など、母が小学校のときからの同級生。母と同じひとり暮らしということもあってか、カーテンや雨戸の開け閉めで、お互いの様子を確認しあっているようです。

手術後、母の歩行が不自由になったり、車いすの生活になったりしたのであれば、事情は違ったのかもしれません。でも頑張り屋の母はリハビリを続け、歩けるまでに機能は回復しました。

結局、母自身が、子どもと同居よりも実家にそのまま住み続けることを望んでいますし、私たちきょうだいも、無理に住み慣れた場所から離すよりも、今の状態でサポートする方がいいだろうと判断したのです。現在も、頭はしっかりしており、持病もありません。要支援2です。だいたい身の回りのことは自分でできますが、週2回リハビリを目的にデイサービスに通い、週1回のホームヘルパーと、訪問リハビリにも来てもらっています。