「第3の矢」は息切れ寸前!?

2009年3月期からの7年間に2130億円超の利益を水増しした不適切会計処理で、3代にわたる歴代社長が辞任に追い込まれた「東芝ショック」が、安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」に水を差しかねない。

なぜなら、安倍政権が昨年来、成長戦略でいの1番に打ち出してきた企業統治(コーポレートガバナンス)改革が今年、実行段階に入った矢先を襲った出来事だったからだ。安倍政権は今通常国会の会期を9月末まで延長し、安保関連法案の成立に前のめりであり、いまや「経済最優先」の姿勢は微塵もない。

その点でアベノミクス「第3の矢」の成長戦略は息切れ寸前であり、「経済の好循環」実現は危うさが漂うばかりだ。企業統治改革の柱は、企業が投資家を通じて競争力を強化するコーポレートガバナンス・コードと、機関投資家が投資家の企業価値向上を目指すスチュワードシップ・コードの二本立てだ。

今年6月30日に閣議決定した成長戦略「日本再興戦略 改訂2015」も、企業統治強化により「稼ぐ力」を引き出す企業行動を促す政策を、「1丁目1番地」に位置付けた。企業統治改革には、企業との直接つながりの薄い独立社外取締役の設置を上場企業に実質的に義務付けることや持ち合い株の解消などを通じ、企業にROE(自己資本利益率)の向上など効率経営を促すねらいがあった。

実際、金融庁は2014年2月、スチュワードシップ・コードを公表し、今年6月には上場会社に独立社外取締役を2人以上選任することなどを促すコーポレートガバナンス・コードを導入し、今年をさながら「企業統治元年」に位置付けた。社外取締役は従来、不祥事防止のため企業にコンプライアンス(法令順守)の徹底を促すなど、抑止力に重きを置いた「守りの経営」を主眼に選任されてきた。