高齢者向け床ずれ防止マットからスタート

ナノ微粒子の最先端技術を活用した新製品を開発した中村だが、理工系の出身ではない。

慶應義塾大学商学部出身で、親族が商売をしている人たちが多いので、自分もいずれは商売を始めようと思っていたが、確たる目的があるわけでもなかった。

「周りが就職活動を始めて、自分もようやく仕事を意識し始めたとき、やはり世の中に役立ちたいと思ったんです。しかし、具体的には決められず、まずは3年間だけ会社勤めをして商売の勉強をしようと思いました。

目の疲れを取るアイマスク。

3年間で辞めるという無茶な要求を汲んでくれたのが、あるコンサルタント会社だった。2003年に就職するが、ちょうど介護保険が始まって3年目。その会社では介護事業のコンサルティングを強化しようとしており、中村はそこに配属された。

介護ヘルパーの資格を取って介護サービスも経験。有料老人ホームの立ち上げを支援する中で、重度の寝たきり高齢者の床ずれの問題を痛感した。専門的には褥瘡(じょくそう)といい、体重で圧迫されて血流が悪くなった部分がただれたり、傷つく。放置すれば組織が壊死し、骨の露出にもつながるから油断できない。予防には2時間ごとの体位変換が必要である。だが、実際には夜間の介護は人手不足で、それほど頻繁な体位変換は無理だった。

「人手をかけずに何とか床ずれ予防をできないものかと考え、調べると、そもそも高齢者は自律神経の働きが悪く、代謝も悪いことがわかりました。だから、血流も悪くなって床ずれができやすい。それならば、自律神経を刺激して活発にすればいいのではないか」と考えた中村は「人生で初めて」と本人が言うほど必死に勉強し、調べた。その中から微弱な電磁波で刺激をできないかという発想が生まれてきた。それならば、電磁波を出す金属のナノ微粒子を繊維に練り込めないか。

2005年にコンサルタント会社を辞めると、その3カ月後にベネクスを設立。微粒子金属の材料メーカーなどに当たり、東京工業大学の研究者を紹介してもらった。アイデアだけ持ってやって来た若者に興味を持った研究者は、積極的に協力し、前述のPHT開発に結びついていく。

だが、問題はいかにPHTをポリエステル樹脂に混ぜ込んで繊維化するかだ。大手の素材メーカーや素材商社などに当たったが、金属などを練り込んだら機械が壊れるとにべもない。30社も断られ続けたが、東京でナノ素材を開発する中小企業の社長に出会い、「面白そうだな」と共同研究を受けてくれた。

「微粒子をポリエステルに混ぜるとダマになって均一に混ざらない。何度やってもうまくいかず、技術的に一番苦労しました」

結局、金属とポリエステルを混ぜた直径6ミリの粒子を作り、それを繊維化の途中でポリエステルに混ぜ込んで均一化させることに成功した。